公募研究
本研究は、一分子レベルでがん抑制因子p53の多様な構造とそのダイナミクスを観測することにより、天然変性タンパク質の特性の理解とその基質認識機構の解明を目的とする。まず、p53の一分子構造解析を行った。原子間力顕微鏡を使用し、p53を金基板とマイカ基板に固定化し、約40個のp53の構造をナノメートルの分解能で決定した。p53の会合状態を調べるために、基板上にある粒子の体積と最大の高さを計測した結果、基板上のp53には、機能活性のある4量体の他に、多数の会合状態をとることが明らかとなった。4量体の構造に着目すると、マイカ基板上では観測された構造は変性領域が収縮した構造であったのに対して、金基板上ではDNA結合ドメインが区別できるほど変性領域が伸びた構造も観測された。この結果は、金基板上のp53の構造がより溶液中の構造に近いと考えられるため、天然変性タンパク質の構造解析には金基板を使用することが重要であることを示唆する。原子間力顕微鏡を使用し、p53のDNA結合ドメインを分離できる精度で構造を決定したのは本研究が初めてである。次に、p53のDNA走査機構を解明するために、自作の蛍光顕微鏡を用いて、p53のDNA走査機構を調べた。フローセル内にDNAを引き伸ばした状態で固定し、蛍光色素を修飾したp53のDNA上での動きを観測した。DNA上でのp53の位置を追跡した結果、複数の走査モードがあることが明らかとなった。特に、速い走査モードはp53の走査範囲を広げることで、効率的な走査を可能にしていると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
多少の計画の変更はあるが、p53の「一分子構造解析」と「一分子機能解析」を進め、新しい知見を得ることに成功しているため。
平成24年度と同様に、p53の「一分子構造解析」と「一分子機能解析」を進める。特に、特異的なDNA配列と非特異的なDNA配列と相互作用しているp53の構造や機能解析を行う。具体的には、原子間力顕微鏡を用いて、DNA走査時のp53の構造解析を行う。さらに、蛍光顕微鏡を用いて、特異的な、または、非特異的なDNA上を走査するp53の動きを追跡し、p53の機能を明らかにする。2つの知見を組み合わせ、天然変性タンパク質の特性の理解を進め、その基質認識機構を提案する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (22件) (うち招待講演 7件)
化学と生物
巻: 51 ページ: 22-27
J. Am. Chem. Soc.
巻: 134 ページ: 11525-11532
10.1021/ja3020555
生物物理
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