研究領域 | 天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現 |
研究課題/領域番号 |
24113703
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀越 正美 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 准教授 (70242089)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 化学修飾 / ヒストンテイル / ネットワーク / 不規則領域 / 天然変性領域 |
研究概要 |
天然変性領域の生理的意義を示す理論として世界に先駆けて提唱した“Modification web theory”、“Signal router theory”の要となる天然変性領域と化学修飾系との関係性に関する実験的検証を行った。本理論の要点は、「天然変性領域であるヒストンテイル領域は、化学修飾間ネットワーク構造の基盤になっており、天然変性領域が示す可動性・柔軟性が化学修飾の集積、及びネットワーク構造の形成・成長・進化に必要である」という点である。そこで、ヒストンテイル領域を欠損させる、或いは繋ぎ替える(変換)といった方法を用いて、可動性・柔軟性に関する変換を行い、ヒストン化学修飾、ヌクレオソーム構造状態、mRNA合成量や表現型の変化を解析した。 I) ヒストンテイル領域の欠損・変換による解析 ヒストンテイル領域の機能的役割を解析するため、テイル領域を欠損させた出芽酵母株を作製した。これらの株を用いて、欠損したテイル領域以外のアミノ酸残基の化学修飾の増減、ヌクレオソーム構造状態、及びmRNA 合成量を検証し、テイル領域の欠損が与える影響の解析を進め、両理論を支持する結果を得た。この解析を進めていく上で、4種類のコアヒストンのテイル領域が生存に必須ではないといった従来の知見が研究の進展を阻んでいたが、ある1種類のヒストンが生存に必須であるという思いがけない知見を得た。この知見を基に、ヒストンテイル領域の欠損株を用いて化学修飾、ヌクレオソーム構造状態、mRNA合成量、表現型への影響に関しての新しい結果を得た(論文準備中)。 II) ヒストンテイル領域の性質変化による解析 天然変性領域の可動性・柔軟性を、各アミノ酸の構造変換許容範囲から予測し、可動性・柔軟性を変化させうるヒストン多重点変異導入株を作製した。それらの株を用いて、上述した解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究目的・研究計画・方法に示した実験のうち、ヒストンテイル領域の欠失変異体の作成・解析を終了し、ヒストンH4に関して今までに確立されていた知見と異なる新しい知見を得た(論文準備中)。具体的には、以下に示す通りである。30年前から20年前迄の解析では、4種類のヒストンのテイル領域の欠損があっても、生存には必須ではないという知見が得られていた。しかし、それらの知見が得られた論文を丁寧に調べると、1997年に明らかとなったヌクレオソーム構造の情報に立脚したヌクレオソーム構造からテイルが突出している部位周辺については解析がなされておらず(ヌクレオソーム構造の解明以前の機能解析であったことが、そのような結論が得られたままになっていたため、それ以上考慮されないでいたのが理由であろう)、もう一度解析し直す必要があると考えた。その解析は、我々が提唱した“Modification web theory”や“Signal router theory”の仕組みを解明するための基盤を得るために必要となるものであった。結果的に、ヒストンH4のテイル領域は生存に必須であることが分かり、従来の解析結果とは違う状況が生まれた。この結果は、今後の解析を進める上で、有利に展開しやすいものとなった(論文準備中)。更に研究を進めるにあたっては、欠失変異体だけでなく、多重点変異体の解析が必要となるため、異なるヒストン間の繋ぎ変え実験が多少遅れたものの、その分、多重点変異体の解析が進行したので、②の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
長年信じられてきたヒストンコード仮説の問題点の指摘、否定、そして新しい結論を報告した。論文(Genes Cells, 14, 789-806, 2009)で論じたスケールフリーネットワーク性を有するヒストン修飾間の複雑ネットワーク構造を具体的に示す内容(ノード間の繋がり、頑強性を示す修飾の補填度など)に関する実験を開始した。上記11.で示したように、複雑ネットワーク構造の内容の基盤となる過去の知見(ヒストンH4のテイル領域の欠失変異に対しての頑強性)に重大な欠陥があったため、その点を明確にした。その知見に立脚した戦略を立てて、引き続きヒストン修飾間関係に関する解析を今後も押し進める。更に、「N:N」反応の内容の解析を進めていくにあたっても、従来の生物学研究で行われていた「1:1」「1:N」「N:1」反応で解析を進めなければならず、あるひとつの性質を解析するだけで、数十種類の多重点変異体や様々な欠失変異体を作製し、解析を進めなければならないことになる。その一方で、今迄世界に先駆けた研究を発表すると追随者がすぐ現れてきたので、本研究も論文発表後には、追随研究が現れるだろうと考えていたが、発表後5年を経過した現在でも追随研究は現れなかった。その状況は、本研究が今迄以上に非常に独創的研究として捉えることができると思われ、我々の「N:N」研究が数学的思考に弱い生物学者の理解を超えていると考えれば、説明できる。以上に示したように、解析の難しさから遅々となりやすい研究であるが、新しい学問を創造し得るヒストン化学修飾関係の複雑ネットワーク構造内の仕組みの解明に全力を挙げる。
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