神経細胞特異的な転写抑制因子であるNRSFのN末端付近の天然変性領域は、コリプレッサーであるmSin3のPAH1ドメインとα-へリックス形成を伴って結合する。また、髄芽腫では、NRSFの高発現による過剰な転写抑制が報告されており、NRSFとPAH1の結合を拮抗阻害して、転写抑制の解除やアポトーシスを誘導する薬剤の開発が望まれている。そこで、PAH1とより強く相互作用するペプチドを設計開発することを目的とした。まず、アミノ酸の特性と配列パターンを効果的にデザインしたペプチドライブラリーを設計し、ファージディスプレイを行い、新規なPAH1結合配列群を獲得した。次に、これらの結合配列データの情報解析により親和性向上を目指した変異体をデザインし、表面プラズモン共鳴センサーを用いてPAH1との相互作用解析を行った。その結果、野生型NRSF(43-83)では解離定数 Kd = 3.3 μM に対して、Q45L変異体では Kd = 0.29 μM と約10倍の顕著な親和性の向上に成功した。これにより、親和性が向上した結合ペプチドをデザインするための一連の本手法について、一定の有用性を実証できたと考えられる。
|