研究実績の概要 |
真核生物の転写因子 Sp1 と TAF4 は、ともに転写活性化ドメインとしてグルタミン残基を多く含むグルタミンリッチドメイン(Qドメイン)をもつ。これまでに行われた生化学的な研究から、両タンパク質は互いのQドメインを介して相互作用すると考えられている。しかしながら構造生物学的な研究はほとんどなされておらず、Q ドメインの構造や相互作用の分子機構は未解明のままである。本研究では、Sp1 に2つ存在するQドメイン (QA, QB) と TAF4 のQドメインとの相互作用を、CD, NMR, SPR を用いて解析した。その結果、QA ドメインと TAF4 との間に有意な相互作用は観察されなかった。その一方で、QB ドメインは TAF4 のQドメインと比較的強く (KD ~ μM) 相互作用する事が NMR ならびに SPR の解析により明らかとなった。さらに興味深い事に、QB ならびに TAF4 はともに生理学的条件下において特定の立体構造をもたない天然変性蛋白質であること、また両者の相互作用は大幅な立体構造変化を伴わず、特定の立体構造をもたないまま相互作用している事が CD スペクトルの解析により明らかとなった。一般に天然変性蛋白質がそのリガンドと総合作用する際には何らかの構造変化を伴うことが知られている。本研究で見いだされた Sp1 と TAF4 との相互作用は、従来までに知られている Induced fit 機構とも異なる、新しい種類の相互作用様式であると考えられる。
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