タンパク質の溶液中における構造及び構造変化を明らかにすることはその機能発現機構を理解するために大変重要である。そこで、この溶液中での構造解析手法として小角散乱法が注目されている。また、固定された構造を持つのではなく結合対象によりその構造を変化させる天然変性タンパク質においても、構造変化が溶液中で進行し、結晶構造解析では見ることができない不定形領域も散乱に反映されるため、天然変性領域等の構造解析にはこの小角散乱が有力な手法である。ただし、タンパク質複合体における特定部分(天然変性領域など)の構造を観測するためには、中性子の特徴を生かした試料重水素化と溶媒コントラスト変調法が必要である。しかしながら、これらを組み合わせた手法は解析法は未開発である。 そこで、本研究では、計算上75%重水素化タンパク質が重水溶媒中で散乱が消去されることに注目した。実際に75%重水素化タンパク質(75d-PbaB)を調製し、それと会合する軽水素化タンパク質として天然変性タンパク質の一つαシヌクレインを用意し、混合系における構造変化を重水水溶液中で観測した。 その結果、混合系においてもαシヌクレインのみの構造を観測することに成功するとともに、PbaBとの結合により2次構造の消失と若干のサイズ収縮が起こっていることが確認された。
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