公募研究
Hsp90-Cdc37シャペロンの新規クライアントとして、DYRKファミリーキナーゼのうちのDYRK1B, DYRK4を同定した。同ファミリーに属し配列の相同性が高いにも関わらず、DYRK1A・DYRK2・DYRK3はHsp90-Cdc37とは結合せず、Cdc37によるクライアント認識は極めて特異的であった。また、Cdc37・Hsp90のいずれもがチロシンリン酸化され、そのリン酸化がシャペロンサイクルの効率良い進行に重要な役割を果たすことを明らかにした。特に、Cdc37の天然変性領域の近くに存在するTyr-4のリン酸化がクライアントとの結合を負に制御することから、Cdc37の天然変性領域のリン酸化による構造変化とクライアント結合能との密接なかかわりが示唆された。また、Cdc37によるクライアントキナーゼの認識に関し、DYRK2を用いた解析を行なった。Hsp90-Cdc37は野生型DYRK2と安定な複合体を形成しないが、点変異によるキナーゼ不能型DYRK2とは強く結合した。一方、Hsp90阻害剤は野生型DYRK2の構造変化を引き起こしたことから、Hsp90-Cdc37は安定な複合体を形成しないにもかかわらずDYRK2のフォルディング過程に必要であると判った。また、DYRK2の構造形成に必須なチロシン自己リン酸化がHsp90の阻害剤によって抑制された。更に、Hsp90-Cdc37はDYRK2のフォルディング過程の非常に初期段階を認識し、DYRK2の自己リン酸化の際のATP結合にともない解離した。これらの結果から、安定な複合体を形成しないクライアントキナーゼの中にもその構造形成にHsp90-Cdc37シャペロンを必要とするものがあること、すなわち本来的な意味での「分子シャペロン」としてHsp90-Cdc37がクライアントの構造形成に関わる場合があることが初めて示された。
2: おおむね順調に進展している
Cdc37のクライアントキナーゼ認識機構及びその調節システムの理解につながる研究成果については、主にDYRKファミリーキナーゼをモデルシステムとして充分な成果をあげられたと判断している。Hsp90-Cdc37のチロシン残基リン酸化の重要性に関する国際共同研究の成果はすでに有力誌に論文発表を行なった。また、DYRKファミリーキナーゼとその結合タンパク質についての研究成果も国際・国内学会での発表を行ない、一部について既に論文発表を行ない、残りの部分について現在2編の論文を投稿中である。当初の研究計画とは異なるが、研究の過程でDYRKファミリーキナーゼの新たな結合タンパク質WDR68を同定して論文発表を行ない、更にWDR68の結合タンパク質の同定に関する新たなデータが得られたため現在解析・論文執筆中である。一方で、当初計画のうちのCdc37のクライアント認識領域の構造-機能相関の解明に関しては現在までの達成度は充分ではないと認識している。Cdc37のクライアントキナーゼ認識・結合部位は分子のN末端付近に存在し、これまでの研究でCK2によるSer-13のリン酸化やSrcファミリーキナーゼによるTyr-4のリン酸化がクライアントとの結合を制御する事を示した。従って、リン酸化による構造変化がクライアントの認識を密に制御すると考えられ、その構造の詳細な解明が重要である。しかし、これまで同領域を含むさまざまな変異体の大量精製を行なってX線結晶解析を試みたが、未だ成功していない。おそらく天然変性領域の特性として同領域は固定した構造を取らないために結晶化しにくいと考えられ、現在NMRによる解析を共同研究により進行中である。
Hsp90-Cdc37-キナーゼ複合体形成の制御機構の解明のため、リン酸化以外の翻訳後修飾の役割の解明を進めたい。まず、Hsp90の機能の一部を制御することが知られているアセチル化について、さまざまなタンパク質アセチル化酵素の阻害剤を用いてHsp90-Cdc37-クライアントキナーゼの複合体形成にどのような影響があるかを調べる。その結果からクライアントキナーゼの構造形成における分子シャペロンのアセチル化の生理的意義を明らかにしたい。これまでに、CK2によるCdc37のSer-13のリン酸化が、Cdc37の天然変性領域によるクライアントキナーゼ認識に必須であることを示した。このリン酸化反応あるいはリン酸化天然変性領域によるクライアント認識過程を阻害することができれば、Hsp90-Cdc37のさまざまなシグナル伝達クライアントキナーゼ活性の包括的な抑制につながることが期待できる。従来ゲルダナマイシンやその誘導体によってHsp90を特異的に阻害することで広範なクライアントキナーゼを抑制し、抗がん効果が得られることが知られている。このことから類推すると、Cdc37によるクライアントキナーゼの認識を阻害することによって細胞増殖抑制効果が得られると期待できる。Cdc37の天然変性領域を含むさまざまな細胞膜貫通型のペプチド誘導体を合成し、それらを細胞に添加した時にCdc37のクライアント認識を阻害することができるか、細胞の増殖をはじめとするさまざまな表現型にどのような変化が現れるかを解析する。得られる結果は、これまでと異なるメカニズムと標的分子をもつ、新しいタイプの抗がん剤の開発につながることが期待できる。
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