公募研究
チロシンキナーゼは、細胞外からの情報分子を細胞内シグナルへと変換する過程、いわゆる細胞内情報伝達系における最も初期の段階で機能する酵素である。細胞膜貫通型チロシンキナーゼは細胞外の液性因子の受容体タンパク質として、膜タンパク質であるSrc型チロシンキナーゼは細胞外マトリックスへの細胞接着によって活性化されることで、それぞれ細胞の増殖や運動を司る。医療分野においてもさまざまなチロシンキナーゼ阻害薬が臨床応用されており、BCR-ABLやEGF受容体などを特異的に阻害する分子標的治療薬が注目を集めている。本研究では、細胞質型チロシンキナーゼFerに存在する特定の立体構造を取らない「天然変性」領域(以下FX tail)に着目し、細胞膜との直接的な相互作用による活性化機序の解明を目的としている。特に、(1)FX tailがどのようにして膜と相互作用しているのか、(2)膜との結合によってFX tailがどのような構造変化を起こしているのか、(3)FX tailの構造変化がどのようにしてFerチロシンキナーゼを活性化しているのか、の3つの課題を設定した。まず、FX tail内のどのアミノ酸残基が、細胞膜を構成する酸性リン脂質との結合に関与しているのかを明らかにするため、本領域に存在する正電荷側鎖および疎水性側鎖にアミノ酸置換を導入した。その結果、複数の正電荷側鎖と疎水性側鎖が協同的に働いて膜との相互作用を行なっていることが明らかとなった。また、FX tail領域は膜結合に伴ってαヘリックス構造を取ることを示唆する成果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
Ferにおける天然変性領域(FX tail)と生体膜との相互作用に関する解析は、概ね順調に進行している。また、NMRによるFX tailの構造解析に資する同位体標識タンパク質の調製も連携研究者と共同で鋭意遂行中であり、平成25年度内に一定の成果が得られるものと期待している。留意点としては、本年度計画にあるFer活性化におけるSH2ドメインとFX tailとの構造的連関の解析において、現時点で明確な結論につながるデータが取得出来ていないことが挙げられる。
今後はNMR解析に資する同位体標識タンパク質の調製を急ぎ、一定の構造データを取得することを第一の目標としたい。また、最も重要な活性化モデルの確立に向けては、FX tailとSH2ドメインの双方を包含するコンストラクトの構築、あるいはFerの全長コンストラクトによるリコンビナントタンパク質の発現、精製系に挑戦して行きたい。本研究期間において完了できるかは不透明ではあるが、近い将来においてFerの全長タンパク質の生体膜での立体構造の解明に資するものとして行きたいと考えている。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件)
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