神経変性病の一つにパーキンソン病があるが,この病気の発症には天然変性タンパク質であるαシヌクレインのアミロイド線維形成が密接に関係している。αシヌクレインタンパク質を用いたアミロイド線維形成機構について,蛋白質工学的手法を駆使して研究を行うとともに,天然変性タンパク質のモデルタンパク質としてコシャペロニンGroESの変性常態下からのアミロイド線維形成中における細胞毒性評価やその制御の研究を行った。 αシヌクレインのアミロイド線維は低温下で解離消失することがCDやチオフラビン測定によって明らかになった。αシヌクレインのアミロイド核を形成する領域周辺には,酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸が高い頻度で局在しており,これらの負電荷と正電荷のバランスによってアミロイド線維形成とその安定性が支配されていることが示唆された。また,αシヌクレインが作るアミロイド線維構造の特徴を明らかにするために,高エネルギーX線回折法によって一分子レベルの構造測定研究を試みたところ,液体窒素低温下での調整サンプルによる反射データから周期性を持った繊維状の構造イメージが初めて明らかになった。 一方,GroESを用いた天然変性タンパク質のモデル研究では,塩酸グアニジン変性状態から典型的なアミロイド線維が形成され,その形成途中の中間体分子種に高い細胞毒性があることが分かった。また,ポリフェノールの一種であるアントシアニンによって,このアミロイド線維形成がほぼ完全に抑制されるとともに,すでに形成されたアミロイド線維も可溶化されることが明らかになった。これらの研究結果は天然変性タンパク質の溶液中での構造変化がもたらす最終的な凝集体構造の特徴とその途中に示す生化学的に重要な物性について重要な知見を与えるものである。
|