核膜孔複合体は約30種類のヌクレオポリンから成り、総分子量125 MDaにも及ぶ超分子構造体である。近年、核膜孔が核―細胞質間分子輸送だけでなく、遺伝子発現やクロマチン構築にも関与することが明らかになった。従ってヌクレオポリンと相互作用する新規分子を大規模に同定することが重要な課題となっている。研究代表者らは最近、ERK/MAPキナーゼが複数のFGヌクレオポリンをリン酸化することにより、インポーティンなどの輸送運搬体との相互作用を抑制することを明らかにした。本研究では、FGヌクレオポリンと相互作用するタンパク質をさらに検索するため、複数種のFGヌクレオポリンをビーズに固相化し、細胞抽出液からプルダウン法によるアフィニティー精製を行った。そして精製物を直接ゲル化した後、質量分析法によるタンパク質の同定を大規模に行った。その結果、様々な輸送運搬体に加えてDNA修復に関与するDNA結合タンパク質や転写制御に関与する脱ユビキチン化酵素、ヒストンシャペロンなどを同定した。FGヌクレオポリンをあらかじめERKでリン酸化させるとこれらの相互作用は全て抑制された。今後はこれらの相互作用因子について、核膜孔における生理機能とリン酸化による制御機構を明らかにする予定である。また核膜孔が約40 kDa以上の分子に対してバリアとして働く一方、より大きな輸送運搬体を能動的に通過させる分子機構は核―細胞質間分子輸送の研究分野で最も重要視されている。本研究では、セミインタクト細胞に活性型ERKまたは不活性型ERKを加えて核膜孔でのFGヌクレオポリンのリン酸化状態を操作し、インポーティンやGFP-GFPなどの核内移行をタイムラプス観察した。その結果、FGヌクレオポリンのリン酸化によって核膜孔のバリア機能も輸送運搬体の能動輸送も制御されることが明らかになった。
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