哺乳類の初期発生において,生殖細胞のゲノム全体は高度なメチル化を受けており,受精後から始まるゲノムの脱メチル化の制御は,正常な個体発生に必須であると考えられている.PGC7は,ヒストンH3 のメチル化を受けたリジンへの結合を介してDNAを脱メチル化から保護する雌性ゲノムの脱メチル化保護因子である.さらに,PGC7の結合因子 (PGC7BP) が見出され,PGC7が行うメチル化DNA保護の分子機構が明らかにされつつある.PGC7はアミノ酸配列からは天然変性タンパク質であることが示されていることから,その機能は,ターゲット分子との結合を介して一定の立体構造を形成することで誘起されると考えられる.本研究では,PGC7とメチル化リジンおよびPGC7BPとの複合体のX線結晶構造解析を行い,天然変性タンパク質であるPGC7がそれぞれのターゲット分子依存的な立体構造形成を介して,どのように機能発現するかを構造生物学的に明らかにする. これまでの全長PGC7の精製実験から,多量体形成が起こりやすいことがわかったため,発現領域を変えたいくつかのPGC7の発現コンストラクトを作成した.これらの中でも安定なものについて精製を行い,現在結晶化スクリーニングを進めている.またPGC7とPGC7BPとの相互作用領域を明らかにするため,PGC7とPGC7BPとの結合領域の検討を行った.上述したPGC7の発現領域を変えたコンストラクトと,ドメイン構造を基に3つの領域に分割したPGC7BPにGSTを付加させたものを用いてGST-pull downアッセイを行い,PGC7およびPGC7BPの結合に必要なそれぞれの領域を明らかにした.現在,これらの情報を基に共発現による大量調製を行っている.
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