研究実績の概要 |
細胞内のダイナミクス解析では,大腸菌を用いた系で新たな知見を得た.これまでのGB1,TTHA1718蛋白質を用いた予備的実験から,in-cell NMRによるT1, T2緩和実験のデータが,in-vitroの系と比較してT1緩和時間が上昇しT2緩和時間の減少が見られた.さらに,これらのデータは,理論カーブから大きく外れるという結果を得ていた.そこで,本年度はこの結果を踏まえ,理論値と一致しない点をより詳細に解析するためにDEST法と呼ばれる新しい緩和測定を行った.現在暫定的な結果として,標的分子が細胞内で何らかの巨大分子と相互作用している可能性が示唆された.今後はこのデータの質の向上のための測定法の改良と伴に,新たなモデリング手法適用することにより,より詳細な解析を進める. ペプチド分子を用いたin-cell NMR計測では,分子の運動性や物性が詳細に解析されている5種類のペプチド試料を選択し,大腸菌により大量培養を行った.5種類のうち1つのペプチド分子については,大腸菌を用いた系とヒト培養細胞(HeLa)を用いた系の2つのin-cell NMR測定を行った.しかしながら,いずれも解析に十分な感度のシグナルを得ることができず,今後試料調製法の見直しを検討している.また残りのペプチド分子については,スモールスケールでの発現の確認まで進行した.今後は安定同位体試料を用いた大量発現,精製を進める予定である. Sf9細胞を用いたin-cell NMR計測において,3次元NMRスペクトルの測定に成功し,78%の蛋白質主鎖原子の化学シフト帰属を達成した.本成果は,学術論文誌上に発表した(J.Am.Chem.Soc., 135(5), 1688-1691). 生物物理学会誌にin-cell NMR測定から分かる蛋白質の細胞内動態に関するレビューを報告した(生物物理 53, 76-81).
|