研究実績の概要 |
本研究の目的は,天然変性タンパク質(Intrinsically Disordered Protein, IDP)の実験値を再現する構造アンサンブルを計算機内に生成し,その構造特性を明らかにすることである。これまでの溶液X線散乱(SXS)の実測値を使った解析から,基本的にはIDPはランダムポリペプチド鎖で説明可能であることが分かっている。一方,残余双極子結合(RDCs)を使った解析では,実測RDCs値とランダムポリペプチド鎖のアンサンブル平均値には有意な差がある。本研究は,この差異を生じる原因となる局所的な構造形成傾向を定量的に検出すし,その物理化学的要因を明らかにする。 本研究では,典型的なIDPであるαシヌクレインの解析を行うが,先ずはその比較対象として,尿素変性状態,及び酸変性状態アポミオグロビンを解析した。既に開発済みのランダムポリペプチド鎖の高速生成法を使ってIDPの構造アンサンブルを生成した。この構造アンサンブルを基に,構造生成法の改良と構造アンサンブルの再構築を行なった。構造生成に使用する各アミノ酸残基の主鎖2面角領域の出現頻度,及び配列依存性情報は,天然構造データベース(protein data bank)から得た。基本的には,天然構造におけるコイル領域(2次構造に含まれない領域)の主鎖2面角データを使用した。生成した個々の構造に対しRDCsの予測計算を実行し,そのアンサンブル平均値と実験値を使ってRDCs実験再現性を評価した。その結果,実測RDCsを良く再現する尿素変性・酸変性状態アポミオグロビンの構造集団の生成に成功した。また,これらの構造集団は,SXSの実験値も定量的に再現する。特に酸変性状態では,局所的な二次構造部位の存在がこれら実測値(RDCs, SXS)を再現する上で極めて重要であることが分かった。
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