研究領域 | 植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高CO2応答の包括的解明 |
研究課題/領域番号 |
24114703
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
西田 生郎 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40189288)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 植物 / 糖転流 / 原形質連絡 |
研究実績の概要 |
モデル植物シロイヌナズナの糖転流経路には、 SUC2ショ糖トランスポーターに依存するアポプラスト経路(AP経路)と、原形質連絡を通じた物質輸送を行うシンプラスト経路(SP経路)がある。 1.AP経路とSP経路の相関関係の評価 シロイヌナズナのAP経路で働くSUC2とSP経路の2°PD形成制御因子RSX1に注目し、それぞれの変異株におけるRT-PCRを行った結果、rsx1変異株ではSUC2の発現レベルが野生株と較べて有意に増加した。またAP経路が阻害され極度に矮性化するsuc2変異株と掛け合わせした二重変異株rsx1 suc2ではより極度な生育阻害が観察された。現在、SP経路の重要性をさらに評価するために、suc2変異株でRSX1を過剰発現させ、表現型が回復するかを検討中である。 2.野生型シロイヌナズナの糖転流経路に対する高CO2環境の影響 高CO2環境下で18日育成した野生型シロイヌナズナ(抽薹なし)において、14CO2の同化・転流実験を行ったところ、高CO2環境下では通常CO2環境に較べ、葉面積あたりの同化量が増加するとともに、シンク組織(シンク葉と根)への同化産物転流の割合が顕著に増加した。また、高CO2環境で生育させた野生型を用いたRT-PCR解析から、通常CO2環境より全ての葉序においてRSX1の発現レベルが上昇した。一方、AP経路の制御因子SUC2の発現レベルには変化が見られなかった。さらに高CO2環境でのrsx1-2 ProRSX1-RSX1:EYFP植物のRSX1-EYFP蛍光観察およびアニリンブルー染色(PDマーカー)からは、間接的にPD形成の強化が示唆された。以上の結果より、高CO2環境に応答してシロイヌナズナのSP経路が増強され、糖転流活性が上昇したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.AP経路とSP経路の相関関係の評価 シロイヌナズナのAP経路で働くSUC2とSP経路の2°PD形成制御因子RSX1に注目し、それぞれの変異株におけるRT-PCRを行った結果、rsx1変異株ではSUC2の発現レベルが野生株と較べて有意に増加した。またAP経路が阻害され極度に矮性化するsuc2変異株と掛け合わせした二重変異株rsx1 suc2ではより極度な生育阻害が観察された。以上の結果は、 SUC2とRSX1が相補的な糖転流経路を構築するという直接の証拠である。 2.野生型シロイヌナズナの糖転流経路に対する高CO2環境の影響 高CO2環境下で18日育成した野生型シロイヌナズナ(抽薹なし)において、14CO2の同化・転流実験を行ったところ、高CO2環境下では通常CO2環境に較べ、葉面積あたりの同化量が増加するとともに、シンク組織(シンク葉と根)への同化産物転流の割合が顕著に増加した。また、高CO2環境で生育させた野生型を用いたRT-PCR解析から、通常CO2環境より全ての葉序においてRSX1の発現レベルが上昇した。一方、AP経路の制御因子SUC2の発現レベルには変化が見られなかった。さらに高CO2環境でのrsx1-2 ProRSX1-RSX1:EYFP植物のRSX1-EYFP蛍光観察およびアニリンブルー染色(PDマーカー)からは、間接的にPD形成の強化が示唆された。以上のから、高CO2環境に応答したシロイヌナズナではSP経路が増強され、糖転流活性が上昇するという新しいモデルが提唱される。
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今後の研究の推進方策 |
1. RSX1原形質連絡形成に関して、現在投稿中の論文を受理させる。 2. 高C02環境下でのRSX1発現上昇と、原形質連絡精製の促進に関して、さらに電子顕微鏡レベルでの証拠を示し、論文発表する。 3.RSX1の細胞・組織特異性の解析 RSX1-EYFPを35Sプロモーター支配下で発現するrsx1-2相補株では、稔性が部分的に回復した。今後、葉肉細胞特異的MSDプロモータおよび伴細胞(CC)特異的SUC2プロモータを用いた同様の形質転換rsx1-2変異株を作製し、14CO2の同化・転流実験と2°PDの形成の観察をおこない、 RSX1の組織特異的発現の意義をあきらかにする。 4. RSX1はシンク組織である根で発現することが RT-PCRにより示唆されているので、 RSX1-EYFP発現植物を用いて、根における RSX1発現を高感度に検出する。そして、 RSX1を過剰発現した植物で、根への転流量が増大したという結果を再吟味し、根における RSX1の役割について提唱する。
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