葉緑体は光合成を最適化するような細胞内配置をとることが知られており、一例として、細胞間隙に沿って分布し、細胞同士が隣り合う場所には分布しない。細胞壁液相中でのCO2の拡散が非常に遅いことから、この分布パターンは、細胞間隙からの効率的なCO2吸収を可能にするためと考えられている。併せて、CO2濃度の高い場所に葉緑体を分布させる仕組みの存在が想定されてきたが、適切な実験系が開発されておらず、明確な検証例は無かった。我々は、プロトプラストをゲルに埋め込む実験系と、ガス交換システムにより個葉の細胞間隙CO2濃度を調節する実験系とにより、検証を行なった。 シロイヌナズナのロゼット葉から葉肉細胞プロトプラストを調製し、アガロースゲルに埋め込み、ゲルの片側に炭酸水素カリウム(KHCO3)溶液を置いて、ゲル中にCO2成分の勾配を作った。赤色光下でプロトプラスト中の葉緑体分布の経時変化を調べたところ、KHCO3溶液側への分布の偏りが検出された。ゲルに含まれるCO2成分を定量し、分布の偏りがCO2濃度依存的に起こることを確認した。従って、上記の仕組みが存在する可能性が示唆された。 ロゼット葉の細胞間隙CO2濃度をガス交換システムによって調節しながら光を照射し、葉肉細胞中の葉緑体分布を解析した。暗黒下では、細胞間隙CO2濃度が高い場合に、葉緑体が細胞間隙に沿う傾向がみられた。強光下では弱光下よりも細胞間隙に沿う傾向が強くなることから、弱光位から強光位に推移する光強度付近で細胞間隙CO2濃度を変化させたところ、細胞間隙CO2濃度が高いほど、受光量を増やす分布をとる傾向を示した。従って、受光量およびCO2吸収の調節の間にクロストークがあり、それを介して葉緑体の分布パターンが決定されることが示唆された。
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