研究領域 | 植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高CO2応答の包括的解明 |
研究課題/領域番号 |
24114712
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
徳富 光恵 (宮尾光恵) 独立行政法人農業生物資源研究所, 植物生産生理機能研究ユニット, ユニット長 (70181980)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 高CO2環境 / 光合成のダウンレギュレーション / 炭水化物の過剰蓄積 / イネ / シグナル |
研究実績の概要 |
1)光合成のダウンレギュレーションの分子メカニズムの解析 高CO2環境での光合成のダウンレギュレーション(葉面積当たりの水溶性タンパク質含量の低下)は、高CO2環境下で分化・発達した葉で起こるとされていた。イネでは、低窒素条件であれば、形態的に完全展開した葉(7.0葉期の第7葉)でも、2日間の高CO2処理で葉身の最大タンパク質含量(7.7葉期)が低下することがわかっている。 大気条件で育成したイネ(7.0葉期)を高CO2環境に移し、最上位最大展開葉(第7葉)のガス交換特性を連続的に測定した。その結果、高CO2環境では光合成速度(CO2同化速度)は約15%増大するが、気孔拡散伝導度は約40%に、蒸散速度は約60%に低下すること、特に明期開始後の気孔開口と蒸散が高CO2で大きく抑制されることがわかった。アンモニアを主要窒素源として利用するイネでは根が主要な窒素同化器官であり、根で生成した窒素同化産物(Gln, Asn, Ala等のアミノ酸)は蒸散流に乗って地上部に運ばれる。高CO2処理による完全展開葉のタンパク質含量の低下は、根からの窒素同化産物の流入量の低下に起因すると考えられる。 2)葉身サイズ変化の分子メカニズムの解析 窒素欠乏条件では、向軸側、背軸側ともに、表皮細胞数が減少し葉身が短くなることがわかった。一方、高CO2処理(窒素充分条件)では、向軸側では表皮細胞数が減少したが、背軸側では表皮細胞が短くなることがわかり、向軸側と背軸側で高CO2処理の効果が異なることがわかった。また、葉身幅の減少は、窒素欠乏、高CO2処理ともに、大維管束間隔が狭くなり、その結果小維管束数と表皮細胞列数が減少するためであること、高CO2処理に特異的な葉身厚の増大は、主に維管束鞘延長部(維管束鞘細胞、厚壁組織を含む)が厚くなるためであることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
24年度は、CO2付与機能付グロースチャンバー(所属機関の共用機器)が4ヶ月に亘って使用できなかったため、当初予定より研究が大幅に遅れた。その間、採取済みのサンプルを用いて表皮構造の詳細な解析を行った。23年度は背軸側のみを解析し、窒素欠乏と高CO2処理とで表皮構造の変化が異なることを報告したが、24年度の解析で、表皮構造に対する高CO2の効果が向軸側と背軸側とで異なることを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは、植物体全体を高CO2環境に移し、新たに展開する葉を順次解析することにより、高CO2環境シグナルの作用点を特定してきた。高CO2環境を伝達するシグナルの同定に当たっては、シグナルが生成する部位と時期、および、シグナルが作用する部位と時期を特定し、解析(遺伝子発現プロファイリング、代謝物プロファイリング)を行う必要がある。現在、高CO2処理時間をどの程度短縮できるか調べおり、これまでに4日間の処理で特定の上位葉の葉身サイズ(長さと幅)が減少することがわかっている。高CO2処理時間をさらに短くできるか検討し、ピンポイント高CO2処理実験系を確立する。この実験系と個葉のCO2処理実験系で解析を進めることにより、炭水化物シグナルの同定と作用メカニズムを明らかにする。
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