本研究の目的は、適度に動的不安定性(自律性・可塑性)を備えた細胞分裂装置により、精緻に進行する染色体分離のダイナミックな分子プロセスの一端を明らかにすることである。そのため細胞分裂装置を駆動している生体分子を蛍光標識し、この生体分子1~少数個を3次元空間でイメージングし、少数分子が共同で機能することで始めて出現する挙動の分子機構の解明を目指す。本年度は、細胞分裂を駆動する生体分子のうち、真核生物である出芽酵母の分裂期細胞質ダイニンに着目した。昨年度に構築した3次元位置検出顕微鏡技術と本年度に新たに導入を試みた微細加工技術とを組み合わせ、細胞内の細胞骨格の空間配置に近い状況下でダイニン分子の運動を定量できる実験系を構築し、少数分子のダイニン分子が運動方向を決定する分子機構の解明を試みた。定量の結果、細胞質ダイニンは単独では微小管のマイナス端長軸方向に移動するだけではなく、微小管の周りを両方向にランダムに回っていることを見出した。このことは、従来定説であった運動方向を決定する分子機構とは異なり、ダイニン分子が微小管と結合する反応において運動方向が決定する、ということが示唆された。さらに、少数のダイニン分子がチームとなって共同して運動する場合、微小管側面を一定方向に回り続けることを見出した。少数分子のダイニン分子が協同して機能する際、ランダムな回転運動方向性が一方向性へと転換する分子機構の解明が今後の課題である。
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