研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
24115506
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小嶋 誠司 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (70420362)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細菌べん毛 / FlhF / FlhG |
研究実績の概要 |
海洋性細菌であるビブリオ菌は、細胞の極に1本だけ運動器官のべん毛を形成する。べん毛形成位置と数の制御には、GTPaseのFlhFとATP結合モチーフを持つFlhGが関与している。FlhFは極に局在しべん毛数を正に制御する一方、FlhGはFlhFに作用し極局在を阻害することで負に制御している。なぜ極に、1本だけべん毛を形成できるのかその詳細はまだ分かっていない。本研究では、2年の間に以下の3点を明らかにすることを目標としている:1)FlhFとFlhGの生化学的性質、2)FlhFとFlhGと作用する因子のネットワーク、3)細胞の極に局在するFlhFの分子数とべん毛本数の関係。今年度は、解析が遅れているFlhGを解析の焦点に置き、変異体を作成してべん毛形成への影響を細胞レベルで調べるとともに、FlhGタンパク質の精製系の確立を試みた。FlhGは細胞分裂に関与するMinDに相同性を示し、MinDの機能にはATPase活性が必須であることが分かっている。FlhGにも保存されているATPaseモチーフに変異を導入したところ、推定ATP結合部位の変異により、べん毛本数を負に抑制する機能が失われ、軟寒天培地上での菌の運動能は低下し、FlhGタンパク質の極局在が見られなくなった。一方ATPase活性制御に関与する残基に変異を導入すると、べん毛形成および軟寒天培地上の運動能が強く阻害された。興味深いことに、このFlhG変異体(D171A)は野生型に比べ極に局在する割合が高かった。従って、FlhGのATPaseモチーフは機能に重要であり、FlhGの極局在がべん毛形成阻害に関与することが明らかとなった。また、FlhGの生化学的性質を明らかにするために、FlhGの大量発現・精製系の確立を試み、比較的純度の高い精製標品を十分量得られるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)FlhFとFlhGの精製とその生化学的性質・構造の解析:解析の遅れているFlhGにおいて、変異体の解析によってATPaseモチーフが機能に関与していることを明らかに出来た。FlhGの生化学的活性とべん毛本数制御機能の関連を明らかにするためにはFlhGの精製標品が必要となる。そこで発現系を再検討し、可溶性のFlhGを十分量得ることが出来るようになった。この可溶性FlhGは、アフィニティーカラムにより比較的純度の高い精製標品として得ることが出来る。ただし、精製後すぐに沈殿してしまうため、まだATPase活性を測ることが出来ていない。現在安定に保存できる条件を検討している。FlhFの大量発現・精製はこれからである。 2)FlhFまたはFlhGと相互作用する因子の探索:力価の高いFlhF抗体を用いた共免疫沈降産物の解析を進めるため、現在実験系を準備中である。一方、我々はFlhFとFlhGの両方を持たない変異体から、運動能が回復した抑圧変異体を単離し、その抑圧変異の同定に成功した。予想に反して、べん毛には関係しない未知の因子に変異が生じており、sflAと名付けた。SflAは1回膜貫通型タンパク質で、細胞質領域にDnaJドメインを持っており、このドメインの保存された残基に変異が同定された。ここまでの結果をまとめて論文として発表した。これまで全く不明であった、FlhFとFlhGをとりかこむネットワークの一部を明らかにすることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は解析の遅れていたFlhGについて、ATPaseモチーフが機能に関与することを明らかにすることが出来、FlhGの精製法も改良により生化学活性測定まで後一歩の所に来ている。また、FlhGが極に局在することがべん毛本数を負に制御する機能に重要であることが分かってきた。我々は、べん毛の本数と位置を最終的に決定するのはFlhFであり、べん毛が形成される細胞極に適切な数のFlhFを配置するメカニズムの中心に、FlhGが関与すると考えている。べん毛本数と位置の制御機構の全体像を明らかにするには、FlhGが極のFlhF数をどのように制御するのかを、生化学的活性をベースに解明する必要がある。次年度は、FlhGのATPaseモチーフがどのように機能に関与するのか、FlhFのGTPase活性との関係を含めて明らかにするため、精製標品を用いた実験を更に進めて行く予定である。その準備は上記の通り、本年度十分に進めることが出来ている。また、力価の高いFlhF抗体を用いた共免疫沈降物の解析も、現在実験系の準備を行っているところであり、こちらも進める予定である。申請者の所属する研究室には、質量分析を得意とする技術職員がおり、助言を得ながら進めることができる。最後に、FlhFの極に置ける分子数の計測は、領域内の研究者との共同研究により実験系を起ち上げたいと考えている。計測のための全反射顕微鏡は、申請者の研究室に既に備わっている。以上のことから、次年度も研究計画調書に記述した通り、順次研究を進めて行く予定である。
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