海洋性細菌であるビブリオ菌の運動器官「べん毛」は、細胞の極に1本だけ形成するため、位置・数の制御機構の解析において優れた研究対象である。べん毛形成位置と数の制御には、GTPaseのFlhFとATP結合モチーフを持つFlhGが関与している。FlhFは極に局在しべん毛数を正に制御する一方、FlhGはFlhFに作用し極局在を阻害することで負に制御している。本研究では、なぜ極に1本だけべん毛を形成できるのかを明らかにするため、FlhFとFlhGの生化学的性質、FlhFとFlhGと作用する因子のネットワーク、細胞の極に局在するFlhFの分子数とべん毛本数の関係に着目した。残念ながらFlhFの分子数計測やネットワークの解析は2年間で進まなかったが、FlhGの生化学的性質とべん毛形成制御との関連について、明らかにすることが出来た。前年度に、変異体を用いた解析からFlhGのATPaseモチーフは機能に重要であり、FlhGの極局在がべん毛形成阻害に関与することが明らかとなっていたので、今年度はFlhGを精製し、実際にATPase活性を測定して、べん毛数制御との関係を探った。FlhGを大腸菌内で大量発現させると凝集が起こり、半数が沈殿してしまった。様々な条件を試して、可溶性画分に残ったものを、グリセロールを含み比較的高い塩濃度の緩衝液を用いることで精製に成功した。精製したFlhGは4ºCで3日間は安定に保たれ、2 mg/ml以上濃縮すると沈殿してしまう。精製後すぐにATPase活性を測定することで、確かにFlhGはATP加水分解活性を示し、べん毛数を減少させる変異体(D171A)ではその活性が非常に高いことが明らかとなった。従って、FlhGのATPase活性を適切に制御することで、極にあるFlhFの分子数が制御され、その結果べん毛の形成が1本に制御されていると考えられる。
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