研究実績の概要 |
細胞は細胞質成分を含む膜の袋であり、ゲノムに代表される内封少数物質がその細胞の表現型を決定する。真核細胞は、有糸分裂において高度な蛋白質の制御を駆使して娘細胞にゲノムを分配するが、原核細胞ではそのような機構がなくともゲノムが正しく分配される(Kleckner et al., PNAS, 2004)。細胞膜中に存在する巨大物質が細胞膜分裂に伴って均一に分配され、1個性を維持するメカニズムは蛋白質の働きにのみ帰せられるのだろうか。自己組織化の観点から、より基本的な物理的効果の寄与はあり得るのだろうか。 我々は、細胞膜モデルである脂質二重膜小胞(リポソーム)を用い、その成長(融合による膜面積増加)や分裂が物理的過程によって連続的に起こり得ることを示した(Terasawa et al., PNAS, 2012)。本研究ではこれを発展させ、リポソームの融合や分裂によってその膜構造が大きく変化する際に、少数内封物質の離散性がどのように変化し得るのかを実験的に検証する。リポソーム膜と内封物質の相互作用がなければ、リポソーム内の物質封入や分配はランダムであり、封入物質数はポアソン分布に従うはずである。一方、これらの物質間で物理的・化学的な相互作用が存在すれば、封入数はポアソン分布からはずれ、1個の物質のみを含む確率が増加する条件があり得ると予想さる。内封物質の排除体積効果等の物理的要因が封入物質の1個性に寄与し得るとの仮説の下に、その条件を詳細に検証する。
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