研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
24115515
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
粟津 暁紀 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00448234)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 排除体積効果 / 分子少数性 / シグナル伝達系 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体膜中・膜上など、空間的制約が強い2次元的な場や、細胞内小器官やその膜領域、及び小器官間領域といった多様な形状の狭い空間等といった、典型的な細胞内環境において進行する細胞内生化学反応過程を、特にこのような空間的特徴ゆえに顕著となる分子の排除体積の影響と、それによる「実効的分子数」変化の影響に注目しつつ、非線形動力学的、及び統計力学的な視点より理論的に考察することである。 今年度はまず、GPCRシグナル伝達系の上流過程のような、典型的な2次元的空間である細胞膜上で起こる生化学反応過程について、受容体、Gタンパク、ターゲットタンパクからなる、分子の排除体積を考慮したシグナル伝達カスケード系の理想化モデルの構築と、そのモデルのコンピューターシミュレーション及び理論解析を行った。その結果、膜上における分子混合いの効果により、シグナル伝達効率が分子密度に対し増減を繰り返す、非線形性の強い複雑な依存性を示す事、またこの依存性が、反応過程と排除体積効果によって自発的に生じる、受容体を中心とし、内側から受容体→Gタンパク→ターゲットタンパク、とターゲット状に分布する、分子のパターン形成に起因している事等を見出した(M. Fujii, H. Nishimori, and A. Awazu, (2013))。また、小胞等の狭い空間中における酵素反応に対する、基質や酵素の形状・変形の影響を考察する為の理想的な分子動力学モデルを構築し、マクロ反応系と微小空間での反応系の特性に顕著な違いが現れる事を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、生体膜上や小胞内など空間的制約が強い空間で進行する細胞内生化学反応過程における、分子の排除体積の影響と、それによる「実効的分子数」変化を明らかにしていく。そのような目的に対して、現在までに、細胞膜上で進行する生化学過程における分子の排除体積の影響を、シグナル伝達系も出るを用いて考察し、そのその空間的制約とそれ故に現れる空間パターン形成と機能性について、新たな知見を得ており、この成果は論文として間もなく出版される予定である(M. Fijii, H. Nishimori, and A. Awazu PLos One 2013)。また小胞内部のような狭い空間において進行する酵素反応に対する、分子の形状による排除体積効果と、形状の変化のし易さによる排除体積効果の変化を考察する為の理想化した分子動力学モデルを構築し、そのシミュレーションと解析に取りかかっており、学会等で議論できる程度の新しい知見を得つつある。 この他に、DNA配列に少しの変異が入る事で、局所的な数個のヌクレオソームポジションが少しずれ、もしくはヌクレオソーム個数が減る事で、その配列の持つ力学的揺らぎが大きく変化し、それがインスレーター活性等のDNA非コード領域の機能性の変調を引き起こす可能性がある事等を見出しつつある。これも3次元空間中で1次元的な DNA を介して数個のヌクレオソームが相互作用するという、空間的制約を受けた典型的な生体内反応場系であり、それ故に現れる非自明な挙動を、本解析により見出す事ができている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、細胞内で進行する生化学反応過程における分子の排除体積の影響と、それによる「実効的分子数」変化を明らかにしていくために、細胞膜内・膜上など、脂質不均一性による空間的制約を受けた2次元場での反応、ゴルジ体・小胞体など体積や形状が様々に変化する微小空間内の反応、及び核内のDNAの形状変化による遺伝子制御ような立体障害の下で進行する生化学過程、等を例題とし研究を進めている。今後は以下の課題について考察を進める。膜上・膜内等の2次元場での反応については、これまで解析を進めて来たシグナル伝達系モデルを、特にシグナル伝達に対するフィードバックとしての膜上・膜周辺環境の変化も考慮に入れたモデルに拡張する。そしてその結果として形成される分子分布の時空パターンと、その機能性との関連について考察をすすめる。ゴルジ体・小胞体等様々に体積・形状を変化させる微小空間内での反応については、内部の反応によるフィードバクとして、内部の分子物性及び膜の形状と物性の変化を取り入れたモデルを導入し、小胞の形態変化と内部の分子形状や分布の変化に着目し、極性や軸、枝上構造の自発的形成の可能性とその特性、機能性を考察していく。また核内DNAのような、3次元空間中における1次元的な構造物故に生じる、内部の部分構造間の立体障害が、遺伝子発現制御に及ぼす影響について、更なる解析を進める。更に別の1次元的な構造物で、11カ所のリン酸化サイトを持つDNA結合型天然変成タンパク質である、FACTの機能性についても、同様の解析を進め、立体障害故に現れる実効的少数自由度性の影響を浮き彫りにしていく。
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