研究領域 | 非コードRNA作用マシナリー |
研究課題/領域番号 |
24115705
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栗原 由紀子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80345040)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 非コードRNA / 顎顔面発生 / エンドセリン・シグナル |
研究実績の概要 |
申請者はこれまで、エンドセリン-1(ET-1)がET-A受容体(ETAR)を介して、頭頚部の形態形成において神経堤細胞の運命決定を制御する因子として働き、特に第1鰓弓では下顎のアイデンティティーを決定することを、マウス発生工学的研究によって示してきた。本研究課題では、noncoding RNAのEvf2が、ET-1/ETARシグナルに関わる分子基盤の解明を目的とした。核転写因子Dlx5,Dlx6は、顎顔面形成においてET-1/ETARシグナル下に存在するが、Evf2はこのDlx5,Dlx6のエンハンサーであるmI56i領域に作用して発現を亢進させることをEvf2ノックインマウスの鰓弓とP19細胞を用いて示すことができた。同様の系で、Evf2は核転写因子HAND2に対して抑制的に働くことを示したが、これはEvf2KIマウスで、ETARKOマウスに比べさらに下顎の切歯が低形成になった原因と考えられた。また、野生型(WT)、ETARKO、Evf2KIの鰓弓のマイクロアレイを用いてEvf2に関わる新たな因子をスクリーニングし、パラスペックル蛋白のPSPC1に着目した。過剰発現の細胞系で、PSPC1蛋白とEvf2 mRNAは核内で一部重なる、または接する状態を呈していたため、Evf2と複合体を形成していることが既に知られているDlx蛋白群とPSPC1との関係を免疫沈降法にて検討したところ、3者が複合体を形成している可能性が示唆された。また、Evf2によるエピジェネティック修飾に関しては、mI56iエンハンサーのDNAメチル化はWTとETARKOの鰓弓で変化がなかったため、ヒストン修飾を検討しているが、10.5日胚の鰓弓のみのChIP assayの系を立ち上げることができ、現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下顎の形態形成に必要な因子に対するEvf2の調節に関しては、Evf2とDlx5、Dlx6、HAND2の関係をin vivo、in vitroでの検討し、最終的なデータをまとめることができ、現在投稿準備中である。 また、Evf2による遺伝子発現調節の分子メカニズムにおいては、Dlx2のみならずDlx5,Dlx6とEvf2が協調してエンハンサーに作用している傍証が得られているので、次はRNA pull-downの系をさらに調整して非特異的な反応をできるだけ抑え、RNAと蛋白の直接結合の有無をはっきりさせる必要がある。Evf2によるエピジェネティック修飾に関しては、10.5日胚の鰓弓のみのChIP assayは、培養細胞と違い細胞数に限りがあるので困難を伴ったが、assay系を立ち上げることができ、現在解析中である。 さらに、PSPC1蛋白とEvf2とのエンハンサーに対する協調作用が見られつつあるが、パラスペックルは転写やRNAプロセッシングに関わる蛋白が局在していると考えられるので、Evf2の作用機序として転写に関わる研究の一つの方向性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
Evf2がDlx5やDlx6とエンハンサーを介して遺伝子発現調節に関わっていることが示されたので、PSPC1を含めたさらなる分子メカニズムを明らかにしていく。また、プロモーター領域に対する作用についても、詳細にLuciferase assayを重ねた上で、転写開始複合体の一部に組み込まれているか検討したい。 一方、Evf2とDlx5,Dlx6の関係をin vivoで検討している中で、偶然にEvf2KIヘテロ かつDlx5/6KOヘテロのマウスが生後1-2日で肺の異常(または 腸管の異常)で死亡することを見いだした。この要因として、Dlx5/6 +/-, ETAR+/-, Evf2異所性発現の3要因があるのでEvf2の貢献度を慎重に見極めつつ、Evf2の生体内での作用を検討していく。
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