研究領域 | 生命素子による転写環境とエネルギー代謝のクロストーク制御 |
研究課題/領域番号 |
24116503
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長嶋 剛史 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80443000)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | トランスクリプトーム解析 / 細胞周期 / 核酸代謝 |
研究実績の概要 |
細胞周期進行に伴う代謝酵素の発現量変化の網羅的探索を行い、変化パターンによるグループ化とプロモーター解析から転写による律速酵素の同定を行った。データベース解析の結果、増殖が停止しているNIH3T3細胞へ増殖因子FGF刺激を加えることによって、グルタミンを基質とした核酸代謝カスケードを構成する酵素群の転写がただちに活性化すること、それらが類似した活性パターンを示すことを見いだした。探索範囲を拡大し様々な種類の細胞における遺伝子発現パターンを網羅的に解析した結果、同様の傾向がヒト乳腺上皮細胞、線維芽細胞へ増殖因子EGF、FGF刺激を加えた際にも見られることを見いだした。 増殖が停止しているNIH3T3細胞に増殖刺激を加えた際の核酸代謝酵素の遺伝子発現量をRT-qPCR法によって経時的に測定することでデータベース解析の結果を検証した。その結果、刺激後早期(4-6時間程度)から発現する遺伝子群と後期(10時間以降)に発現する遺伝子群が存在することを確認した。転写活性化のタイミングを詳細に比較したところ、リボヌクレオチド合成およびサルベージ経路に含まれる酵素の遺伝子発現量が刺激後速やかに定常状態レベルまで上昇することが明らかとなった。増殖刺激強度に対する応答性については、後期発現遺伝子でほとんど影響が見られない一方で、早期発現遺伝子で刺激の強度に応じて活性化タイミングに大きな違いが見られた。プロモーター解析の結果、これら二群に属する遺伝子は異なる転写因子による転写制御を受けている可能性が明らかとなった。 以上の結果から、核酸代謝に関わる酵素群はこれまで細胞周期進行の引き金と考えられてきたE2Fによる転写活性化ではなく、E2Fの活性化に先行して、異なる転写因子によって誘導されていること、特に経路上部に位置する酵素が転写による律速酵素である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに遺伝子発現データベースの網羅的解析を行い、発現変化パターンから代謝酵素のグループ化を行った。注目した一部の酵素については増殖刺激の強度を変化させた際の遺伝子発現量をRT-qPCR法によって経時的に計測し、データベース解析の結果を検証した。パスウェイ解析の結果、同じ核酸代謝経路にあっても経路中の位置に応じて時間特異的に発現する遺伝子が存在すること、プロモーター解析の結果、それらの遺伝子が異なる転写因子の結合配列を持つことを明らかとした。これらの結果から、核酸代謝酵素、中でも経路上部に位置する酵素が転写による律速酵素である可能性を明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の解析の結果得られた転写律速酵素や細胞周期進行によって大きく発現が変化する遺伝子の転写制御領域に結合する転写因子・転写抑制因子を認識配列から推測する。これらの因子が当該部位に結合していることを定量的クロマチン免疫沈降で調べる。特に細胞周期の進行に伴ってその結合がどのように変化するのか、転写との相関が認められるのか、を調べる。 RNAポリメラーゼIIの結合部位および転写を活性化または抑制するヒストンの修飾状態を調べる。まず、データベースでヒストン修飾状態に対する情報を取得する。その情報を参考にして、転写因子と同様に時間経過を追った定量的クロマチン免疫沈降を行う。 上記解析の結果より、注目すべき転写因子、ヒストン修飾、またはRNAポリメラーゼIIについて、全ゲノムレベルでの動態を検証する。細胞周期の時間経過に添って、各因子のゲノムへの結合状態またはヒストンの修飾状態をクロマチン免疫沈降シークエンスにより調べる。同時にRNA-SeqによってRNAの発現量解析を、質量分析によって代謝産物の定量を行い、注目した転写因子・ヒストン修飾が発現量調節、その結果として代謝産物の変動へ関与しているか調べる。 代謝産物と発現量解析と転写因子・クロマチン修飾状態の相互関連を調べることによって、代謝産物による酵素発現の制御、さらに細胞周期制御分子との相互関連を調べて細胞周期―酵素ループを推定する。ループに参画することが判明した遺伝子のノックダウンまたは過剰発現、代謝産物の量的制御(培地中の濃度調整など)がこれらのループに与える影響を調べ、このループの妥当性を検証する。
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