癌の増殖と転移には腫瘍微小環境が重要な役割を果たす。我々は、低酸素・低栄養という腫瘍微小環境が癌の悪性化と治療抵抗性を促進することを報告してきた。本研究では、低酸素・低栄養における転写と代謝のメカニズム解明のために研究を行った。我々は、ヒストン脱メチル化酵素酵素JHDM1Dによるエピゲノム制御等に注目し癌細胞における代謝経路に及ぼす役割を、マイクロアレーを使った網羅的遺伝子発現解析、ChIPシークエンスを用いたヒストン修飾解析およびLC-TOFMSを用いた代謝解析を行った。その成果として、 (1)ヒストン脱メチル化酵素(JHDM1D)は、脂質膜代謝における2つのリン酸化酵素の発現を直接制御している可能性をJHDM1DのChip-SeqとsiRNA等を用いた阻害実験から示唆された。 (2)メタボロームの網羅的解析から脂質代謝経路におけるリン酸化脂質膜代謝産物が低栄養および低酸素・低栄養条件下の癌細胞内において集積し、この代謝物が低栄養状態の癌細胞の生存に寄与することを増殖アッセイから見いだした。 (3)低酸素・低栄養条件下での腫瘍細胞はエネルギー代謝が低酸素状態で亢進することが報告されている解糖系(ワーブルグ効果)に依存しない新しい代謝経路によってなされていることを発見した。 以上の知見から、低酸素・低栄養状態において亢進するエピゲノム因子、転写因子、代謝酵素、代謝産物を制御することが新しい制癌法に繋がる可能性が示唆され一部は研究成果として論文報告した。
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