公募研究
熱ショック応答は、蛋白質のフォールディングと分解等を促進する遺伝子群の発現制御を介した蛋白質ホメオスタシスの維持機構であり、熱ショック因子(HSF)によって調節される。近年、蛋白質ホメオスタシスと代謝ホメオスタシスとに密接な関連があることが老化やがんの研究から明らかとなってきた。申請者らは、蛋白質ホメオスタシスと核酸代謝ホメオスタシスのクロストークを明らかにするために、HSF1と相互作用する蛋白質相互作用ネットワーク解析を行い、核酸合成酵素PRPS群とポリADPリボシル化酵素PARP群、さらにはDNA複製と修復にかかわるRPA群を明らかにした。まず、PARPファミリー蛋白質の中のPARP1及びPARP13がHSF1と特異的に結合することを明らかにした。結合領域を探索したところ、PARP1はHSF1の三量体形成ドメインに、そしてPARP13はHSF1のDNA結合ドメインへ結合することを明らかにし、さらにそれぞれに結合しないHSF1点変異体を同定した。さらに、いずれのノックダウンによっても各種のヒトとマウス細胞でのHSP70の誘導が顕著に抑制された。PARP1はあらかじめHSP70のプロモーター上に結合しており、熱ショックによりHSP70遺伝子本体へと移動する。興味深いことに、PARP13が非ストレス条件下でPARP1を引き寄せることが明らかとなり、今後はさらに詳細な分子機構の解析を進める。次に、RPA1はHSF1と複合体を形成することで、非ストレス条件下でもクロマチンを形成するHSP70を含む多くのターゲット遺伝子へ結合すること、この仕組みが通常条件下での蛋白質ホメオスタシスの維持に必要であることを明らかにした。この複合体を形成しない条件では、ヒトがん細胞の増殖は著しく抑制された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、核酸代謝と蛋白質ホメオスタシスのクロストークの分子機構を解明するのが目的である。その解明のために、核酸代謝と関連のある分子群とHSF1の相互作用に焦点を絞った研究提案を行った。NAD+を材料としてポリADPリボシル化を触媒するPARPの働きは、核酸代謝とクロマチン制御の観点から注目を集めている領域である。それにも関わらず、その分子機構は不明な点が多い。申請者らは、すでにPRPAをクロマチンへ運ぶための全く新しい機構を発見した。さらに詳細な研究により大きな貢献が期待できる。一方、当初は本研究として想定していなかったDNA複製・修復に関わるRPAとの相互作用も、HSF1がクロマチンへアクセスするために必要であることが明らかとなった。核酸の代謝システムが転写と密接な関連があることを明確に示すことができ、新しい分野を開拓する可能性を示した。このように、初年度としては十分な成果が得られたと考える。
前年にひき続いて、以下の解析を進めてゆく。1)ポリADPリボシル化によるHSPの転写制御機構の解明(1)PARP1とPARP13との相互作用を明らかにする。(2)HSP70プロモーター上へのHSF1、PARP1、PARP13のリクルートと互いの関連性を明らかにする。(3)熱ショック応答にPARP1とPARP13のポリADPリボシル化酵素活性が必要かどうかを調べる。必要である場合は、そのターゲット候補と推測されるHSF1あるいはヒストン蛋白質の修飾を明らかにする。(4)HSF1やヒストン蛋白質を含むクロマチン修飾と構造との関連を明らかにする。(5)PRPP1及びPARP13によるHSF1介した蛋白質ホメオスタシスの制御について、温熱耐性、ポリグルタミン蛋白質の凝集体形成、細胞内蛋白質のユビキチン化、などの観点から明らかにする。2)核酸合成酵素によるHSF群を介する転写制御機構の解明核酸代謝の根幹の代謝を担うデノボ核酸合成酵素群PRPS1、PRPS2、PRPS3はアミノ酸配列が極めて類似しており、いずれもHSF1と複合体を形成する。その高発現はHSP70の発現を顕著に抑制することを明らかにした。今後、PRPS群のHSP70プロモーターへのリクルート、それらによるHSP70遺伝子領域のクロマチン制御機構を明らかにする。さらに、RPS群によるHSF1介した蛋白質ホメオスタシスの制御を解明する。
http://ds22.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~seika2/
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