研究領域 | 生命素子による転写環境とエネルギー代謝のクロストーク制御 |
研究課題/領域番号 |
24116518
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松本 雅記 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (60380531)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | プロテオーム / 代謝 / リン酸化 |
研究実績の概要 |
本申請課題は申請者らが独自に考案した『情報基盤定量法』を中核とする統合定量プロテオミクスを用いて、細胞内代謝制御ネットワークを構成するプロテオーム情報(発現・相互作用・翻訳後修飾など)を定量的に取得し、その分子論的理解に貢献することを目的とする。 1)ペプチド情報データベースの構築: 代謝酵素(約1,000種類)とシグナル伝達関連タンパク質(約250種類)を優先的にペプチド情報の取得と定量のための最適化を行い、これらのタンパク質のMRM法による絶対定量のためのMRM methodを構築した。また、ヒト培養細胞抽出物を用いてこれらの方法によるタンパク質絶対定量が可能かを検証し、一細胞あたり5000分子程度を検出限界とする高感度アッセイ系を構築した。 2)ヒト培養細胞のモデル状態の構築: ヒト正常線維芽細胞を用いて1)低密度培養による増殖状態、2)高密度培養および血清飢餓による休止期(G0期状態)、3)各種癌原遺伝子の多重発現による癌化状態、4)活性型Ras誘導発現系による老化状態を人工的に構築した。これらのモデル細胞に対して各種代謝酵素や細胞周期関連分子に関して絶対定量を実施した。 上記の実験により代謝酵素を中心としたタンパク質の精密な絶対定量が可能であることを実証できた。さらに、人工的なモデル状態の代謝酵素の絶対定量の実施によって休止期特異的あるいは細胞癌化に伴う代謝経路のプロテオームレベルで広範な再編成が生じていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通りにH24年度においてタンパク質絶対定量のための事前情報取得や高感度分析のためのメソッド構築などを順調に終えた。また、予定していた細胞の4状態モデル(増殖、休止、癌化、老化)を全て人工的に作り出すことに成功しており、比較的早い段階でこれらのモデル細胞を対象にプロテオーム解析を実施することができ、特に癌状態における主要代謝酵素や主要細胞周期制御因子の絶対定量は概ね完了している。また、より計測の高速化を図るための新たな方法論の開発(SWATH法)やロボットによる全自動プロテオーム試料調製法の確立など、次年度に繋がる予備研究も積極的に展開しておりH25年度の研究を効率よく遂行するための準備も整いつつある。このように、現在のところ、研究計画に沿った実験とその関連研究を順調に展開できており、今後も特に大きな技術的問題等は生じないと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の計画通り以下の項目に沿って研究を行う。 1)タンパク質リン酸化状態の網羅的計測: 代謝酵素のうちいくつかはリン酸化による制御を受ける事が知られている。そこで、上記4状態モデルにおける細胞内リン酸化を独自に開発したリン酸化の大規模定量解析法で網羅的に計測する。そのためにH24年度に予備的に開発してきた新規リン酸化定量解析法であるPhospho-SWATHを導入する。 2)代謝物および転写産物の網羅的定量: 4状態モデルにおける細胞内代謝物量をCE-MSを用いたメタボローム解析によって計測する。さらに、同モデル細胞に対してマイクロアレイおよび次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析を実施する。 3)代謝酵素における相互作用情報および詳細翻訳後修飾情報取得: 代謝酵素にエピトープタグを導入し培養細胞に発現させた後、得られた免疫沈降物を用いて翻訳後修飾(リン酸化以外も含む)の網羅的同定および相互作用因子の同定および定量を実施する。 4)トランスオミクスデータ統合による知識発見: 上記計測により得られた大規模定量情報を統合し「代謝-シグナル伝達」あるいは「代謝-転写」の接点をあぶり出す。具体的にはタンパク質発現量、リン酸化状態、代謝物量、およびmRNAの転写量から4細胞状態間で大きく差異が認められるネットワーク素子を抽出する。さらに、既存のパスウェイ情報や新たに取得した相互作用情報を用いて、同次元および異次元階層間の分子種の関連付けを行う。
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