研究概要 |
生体内で生殖細胞の発生運命を制御している因子は試験管内で体細胞を多能性幹細胞へとリプログラミングする活性を持つのではないかと考え、Klf4,Oct3/4にアルギニンメチル化酵素(Prmt)の一つであるPrmt5を加えることによって多能性幹細胞を誘導できることを見出した。一方で、Prmt1/3/4/6を阻害するAMI-5を加えることで体細胞リプログラミングの効率を上昇させるという報告がなされた。これらのPrmt間ではタンパク質内のアルギニンをモノメチル化し、後にジメチル化する際に非対称性にメチル基を付加する酵素(Type I)であるか、対称性にメチル基を付加する酵素(Type II)であるか、が異なっている。申請者の見出したリプログラミング活性を持つPrmt5は対称性にメチル基を付与し、阻害によりリプログラミング効果が上昇するPrmt1/3/4/6は非対称性にメチル基を付与する。これらのことから対称性のジメチル化は多能性幹細胞を支持する方向性があり、逆に非対称性のジメチル化は多能性幹細胞を支持しない方向性がある可能性が考えられる。対称性アルギニンメチル化の基質を同定するため多能性幹細胞において対称ジメチルアルギニン抗体を用いて検討した。多能性幹細胞では体細胞と比べて特徴的な修飾状態を示す傾向がみられた。これら特徴的な修飾状態を示すタンパク質に関して2次元電気泳動およびにマススペクトロメトリーによる同定を試みた。タンパク質の発現そのものは多能性幹細胞と分化細胞で差がないもののアルギニンのメチル化状態で大きく差があるものに着目した。候補因子の中にはミトコンドリアに極在することが報告されているProhibitinやHsp90が含まれており、さらに解糖系からクエン酸回路への以降を制御する重要な酵素であるPyruvate dehydrogenase (PDH)も含まれている。そのためアルギニン修飾によるエネルギー代謝調節によって多能性幹細胞の分化運命が制御されている可能性が考えられる。
|