昨年度までの研究により、肝細胞において、リシンメチル化酵素に特徴的なSETドメインを有する分子SetXの遺伝子発現がグルカゴン-cAMP-PKA- CITED2経路により誘導されること、また本分子のノックダウンによりグルカゴン-cAMP依存的な糖新生系酵素遺伝子の発現が抑制されることを見出した。これらは、SetXが糖新生を制御する絶食応答性のメチル化酵素である可能性を示唆するものであった。平成25年度に行ったマウス肝臓におけるSetXのノックダウンの実験から、SetXはin vivoでも糖新生系酵素の発現調節に関与することが示された。 我々の検討からCITED2はPGC-1αやGCN5と相互作用し、糖新生系酵素、脂肪酸酸化などに関連する絶食関連遺伝子の発現を誘導することが示され、 SetX はCITED2の標的遺伝子であることから、本年度はSetXが食応答遺伝子の発現を調節する可能性を検証した。網羅的遺伝子発現解析から、SetXは糖新生、脂肪酸酸化などに関与する分子の発現を調節していることが明らかとなった。次にSetXとPGC-1α、GCN5、SIRT1との相互作用を肝細胞における共沈実験により検討した。SetXはGCN5とは共沈しなかったが、PGC-1αとSIRT1とは共沈した。SetXのメチル化酵素活性を測定するin vitro メチル化アッセイにより、これらの分子がSetXのメチル化基質である可能性を検証した。その結果、SIRT1がSetXによってメチル化を受け、その活性が増強することが示唆された。 SetXがヒストンのメチル化酵素である可能性を想定し解析を行い、ある種のヒストンをメチル化する知見は得られたものの、メチル化部位や数といった酵素特性を明らかにすることは今後の課題である。
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