多細胞生物の個体発生は細胞間ネットワークにより厳密に制御されている.すなわち,初期胚発生過程を制御する様々なシグナル伝達に関与する受容体や細胞接着に関わる細胞膜タンパク質などが時空間的に適切に再構成されることが初期胚発生の進行に重要な役割を果たしていると考えられる.しかしながら,初期胚発生と細胞膜タンパク質の「量・質」的制御機構との関連についてはあまり解析が行われていない.酵母Rer1はゴルジ体に誤って輸送されてきた小胞体膜タンパク質を認識し,小胞体へと送り返す分子選別装置として機能することが明らかと成っている.また,この分子選別機構は複合体形成に失敗した細胞膜タンパク質や膜貫通領域に変異を持つ異常膜タンパク質の品質管理にも関与することが示されている.そこで本研究では,Rer1による細胞膜タンパク質の機能発現制御が哺乳動物の初期胚発生制御にどのように関与するかについて検討を行った.Rer1ノックアウトマウスを作製し個体発生におけるRer1の生理的役割を検討したところ,Rer1ホモ欠損マウスは胎生E6.5前後で発生異常を示し致死となることが分かった.そこで,Rer1を欠損したES細胞を樹立し,初期分化過程におけるRer1の役割を検討した.Rer1欠損ES細胞は細胞の増殖や未分化マーカーの発現などは,野生型ES細胞と比べ顕著な違いは示さなかった.一方,Rer1欠損ES細胞を分化誘導するとアポトーシスを伴う分化異常を認めた.これらの結果から,Rer1が哺乳動物の初期胚発生過程に必須の生理的役割を果たしていることが示唆された.
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