着床前初期胚発生では、最終的な個体発生という目的に向かってさまざまな現象が厳密に制御されながら次々と起きる。それらは互いに原因と結果という関係でつながっているだけでなく、適切なステージ・タイミングで起きて初めて機能すると考えられる。これら一連の現象は複雑かつ精密に入り組んでいるため、いずれか一つにでも異常が起きれば連鎖的に次の異常を誘引し、結果的に発生不全に至ると想像させる。しかし一方で、意外にも初期胚は頑強であり、多少の異常(摂動)を緩衝する能力があり、かつその能力は胚ごとになっており、摂動を乗り越え得た一部の胚が最終的な個体発生に至ると考えられる例が出てきた。そこで本研究では、このような胚の摂動に対する影響や、その不均一性の生物学的な意義を理解することを最終的な目標としながら、本期間中は特に「胚の発生速度」に着目し、これまでに我々が開発してきた初期胚ライブセルイメージング技術をもとにしてそれを定量化する系を作る。その後、胚に何らかの摂動を与え、それに対する発生速度の変化を単一胚ごとに定量化する。相関解析などの統計的手法を用いて、非摂動胚との相違について平均値や分散に着目しながら記述する。これら一連の実験の流れについて摂動内容を変えて繰り返し、それらの結果同士を紡いでゆくことで、ゆくゆくは初期胚における補償作用や不均一性の包括的・俯瞰的理解につなげようと言うものである。平成24年度は、顕微鏡システムの改良や画像解析アルゴリズムの開発、解析コンピューターの最適化を行うことで、初期胚の発生速度を自動計算できるシステムの構築を行った。平成25年度は、摂動として排卵時のホルモン処理や胚培養時の酸素濃度に変化を与え、それに対する発生速度への影響について解析した。これらの成果については現在論文執筆中である。
|