研究領域 | 哺乳類初期発生の細胞コミュニティー |
研究課題/領域番号 |
24116712
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中里 研一 独立行政法人理化学研究所, 望月理論生物学研究室, 特別研究員 (70565085)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 生物物理 / 発生・分化 / 自己組織化 / 画像解析 |
研究実績の概要 |
発生過程で機能的形態が実現されるメカニズムを解明するためには、形態形成における細胞の移動や細胞分裂、細胞死を同定し、そこに働く力や制御を理解することが必要である。本研究では、形態形成過程を捉えた3次元時間発展の動画から、細胞の移動や細胞分裂、細胞死を抽出する画像解析技術と、そこから細胞に働く制御を推測する数理モデル研究を融合させることにより、大変形における個々の細胞の役割を明らかにする。細胞集団の振る舞いを捉えた高精細な顕微鏡動画を画像解析することにより、一つ一つの細胞の動きを同定しその運動を明らかにする。また、細胞に働く制御について複数の可能性を考慮しながら、組織レベルの形態形成と整合性が取れる機構を探していく数理モデル研究を展開することで、発生生物学的に未解明の形態形成機構を探る。 24年度はマウス胎生6日胚における細胞移動について、基礎生物学研究所の野中茂紀准教授と共同研究を推進した。DSLMで得た胎生6.5日胚のライブ画像を対象に画像解析を行い、個々の細胞の動きを追跡した。得られた追跡軌道を使って、細胞の動きに関わる力の作用の仕方を統計解析した。得られた結果は学術論文にまとめ、PLoS Oneに掲載された。また東京大学の平良眞規准教授、基礎生物学研究所の三井優輔助教と、アフリカツメガエルの位置情報分子の濃度勾配について共同研究を行った。三井助教の実験結果に基づき、モルフォゲンの拡散係数が空間的に離散的になっている場合の濃度勾配の数値計算をした。特に実験的に得られた特別なパターンを説明できるようなモデルを複数構築し、比較検討を行った。得られた結果は論文にまとめ、現在学術雑誌に投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス胎生6日胚における細胞移動に関する野中准教授との共同研究が進んだ一方で、東京大学の山口良文助教との共同研究は、それほど進まなかった。昨年度試験的にデータ解析をした際には、神経管閉鎖領域全体を観察しようとすると、個々の細胞の振る舞いを捉えるだけの十分な解像度が得られなかった。今年度は注目する領域を狭めることで、細胞死分布と高い空間解像度での解析の両立を目指す。
|
今後の研究の推進方策 |
細胞集団の動画の画像解析から細胞の振る舞いを捉え、数理モデルを構築し、検証可能な予測を導く研究を行う。理論による予測と実験による検証を繰り返すことで、注目する形態形成で働く細胞レベルの制御を解明する。特にマウス神経管閉鎖における細胞死制御について、東京大学の山口良文助教との共同研究を重点的におこなう。マウス初期胚における細胞移動と、神経管形成における細胞死制御を対象とし、3次元空間中の細胞分布の時間発展を捉えたデータを得る。細胞集団の振る舞いを捉えた画像データから個々の細胞の振る舞いを捉える画像解析技術の開発と、得られた結果に基づき細胞レベルの制御を推測する数理モデル研究とを、同時進行で行う。昨年度試験的にデータ解析をした際には、神経管閉鎖領域全体を観察しようとすると、個々の細胞の振る舞いを捉えるだけの十分な解像度が得られなかった。今年度は注目する領域を狭めることで、細胞死分布と高い空間解像度での解析の両立を目指す。細胞集団の動きを捉えた画像から個々の細胞の振る舞いを読み取る際には、時間分解能の制約、組織全体の大変形、細胞数に由来する莫大な計算量、ノイズといった、多くの困難が伴う。これを克服する方法を開発してきた。これらを改良しマウス初期胚の3次元画像に適用することで、細胞運動や細胞死の時空間分布を読み取る。 また現在、新たな研究対象としてショウジョウバエ変態期における翅形成における、細胞死について東京大学の三浦正幸教授と議論を行っている。対称が哺乳類ではなくショウジョウバエであるが、マウスと同様の画像解析により細胞死の分布が解析できる可能性がある。また昆虫の変態は組織レベルで際立った変形が起こる例であり、またこの形態形成に伴って個々の細胞がより積極的な働きをしている可能性がある。共同研究が実現すれば、得られた成果は生物種を超えて有用な情報を与えると期待している。
|