哺乳動物胚において子宮が胚発生にどのような機能を果たしているのか不明な点が多い。マウス胚着床後、最初の重要な現象は、Cerl等が発現する遠位臟側内胚葉(DVE)の出現(前後軸形成)である。今年度は、初期胚における細胞動態制御モデル系として、前後軸に注目し以下の知見を得た。1、まず、マイクロデバイスで作製した空洞内でin vitroで着床直後胚を培養した場合、胚を、縦方向へ伸長させるとDVEが形成されるが、圧迫をなくし横方向にも成長させると、DVEは形成されなかった。実際、DVE形成に必要な圧力と子宮内膜からかかる圧力は、どちらも20kPa程度であった。2、次に、前後軸が形成された胚とされない胚を用いてマイクロアレイを行ったが、DVE特異的に発現する遺伝子以外は、ほとんど差が見られなかった。しかし、コラーゲンなど基底膜で発現する分子が、DVE部位でタンパク質レベルで失われていた。また、縦に伸長した胚では、基底膜が破れた部位からエピブラスト細胞が内胚葉層に移動し、DVE、その後前方臓側内胚葉細胞となっていた。3、更に、コラーゲンの分解活性を測定する蛍光試薬などを用いて解析したが、遠位領域特異的な分解活性は検出されなかった。そこで、変形した空洞内に胚をいれると、本来遠位でしか切断されない基底膜が空間のある側で異所的に切れエピブラスト細胞が突出することが分かった。また、TGF-bシグナル阻害剤で処理すると、細胞増殖が抑制され、胚が縦長になれず、基底膜の切断も起きないが、より口径の狭い空洞内では、阻害剤存在下でも、縦長に成長し、遠位で基底膜が切断し、細胞が突出した。実際、胚の外側を60nN程度の力で圧迫すると、基底膜が切れ、エピブラスト細胞が突出した。 以上から、生化学的酵素活性などではなく、子宮内膜からの圧力が哺乳動物胚の成長方向を規定し、前後軸を形成させていることが強く示唆された。
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