研究領域 | マトリョーシカ型進化原理 |
研究課題/領域番号 |
24117503
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林 純一 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60142113)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / ミトコンドリアゲノム / 突然変異 / 病態 / モデルマウス |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアゲノム(mtDNA)の突然変異が様々な疾患の遺伝的原因になる可能性が示唆されていることをうけ、変異型mtDNA分子種を起点とした多様な病態発症機構の存在が注目を集めている。このような多様な病態の理解や治療法の探索には、変異型mtDNA分子種を導入したモデル動物の作製と活用が効果的な研究戦略となる。しかし、個体のmtDNA分子を人工改変できないという技術的な限界から、モデル動物の作製は停滞し、当該研究領域の展開が遅延する原因とな っている。そこで本研究では、共生関係の成立過程で「したたかに築かれた機能的・遺伝的連携」に不和合性を誘導し 、ミトコンドリア機能異常を発症する新奇モデル細胞およびモデルマウスの作出を行う。さらにこれらのモデルを活用し、mtDNA分子種を起点とした多様な病態発症機構の理解を目指している。 今年度の成果として以下の3つをあげる。1)培養細胞レベルにおいて、Mus caroliのmtDNAを実験動物マウスの核と共存させると、ミトコンドリア呼吸機能不全が誘導されることを突き止めた。これにより、Mus caroliのmtDNAを含有するモデルマウスが病態モデルになり得ると結論した。2)新たに作製した活性酸素種を漏出する変異型mtDNAを導入したマウスではリンパ腫と高血糖が誘発されることが分かった。3)mtDNA複製の校正機能を破壊したモデルマウスから得たランダムな突然変異が生じた多様な変異型mtDNA分子集団が培養細胞レベルにおいてミトコンドリア呼吸機能を低下させることを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
mtDNAは人為改変できないことから、変異型mtDNA分子種を含有するマウスの作製は天然に存在する病原性mtDNA分子種(体細胞突然変異で生じた微量の病原性mtDNA分子種)を検出/単離し、それらを濃縮後、マウス初期胚またはマウスES細胞にミトコンドリアごと移植するという方法を取らざるを得ない。本研究の実施により、核とミトコンドリアの共生成立過程で「したたかに築かれた機能的・遺伝的連携」に不和合性を誘導できるmtDNA分子種を見出すことに成功している。この発見によって、変異型mtDNA分子種を含有するマウスの作製が加速するとともに、最終目的である変異型mtDNA分子種による多様な病理の解明により近づいたことになる。
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今後の研究の推進方策 |
Mus caroli由来のmtDNA分子をマウスES細胞に導入し、全身性にこのmtDNA分子を保有するモデルマウスの作製を行う。得られたマウスの包括的な病理解析(組織病理・糖代謝/インスリン感受性・行動解析など)を実施し、mtDNAに起因する病態のモデルとしての評価を行う。さらに、既に作製した複数の変異型mtDNA分子導入マウスとの比較解析により、変異型mtDNA分子種による多様な病理の解明を達成できる研究環境を築きたい。
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