本研究課題では、オルガネラの成立過程およびその後の進化過程において、代謝システムの統合・変遷に伴い分子進化を経たと考えられるミトコンドリア膜輸送体 (MC) を対象に機能解析を進める。研究材料には、感染症の原因生物として重要なマラリア原虫と、オルガネラ研究のモデル生物として重要なシアニディオシゾンを用い、酵母との比較を交え、それぞれのMC分子種の完全同定、輸送基質特異性の解析による機能的役割、および代謝経路の進化との相関性を明らかにする。 平成25年度には、新たにマラリア原虫MC6種について基質特異的な膜輸送活性を明らかにした。さらに領域内共同研究により、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)のマイトソーム局在型PAPS輸送体の同定に成功した。これらは世界に先駆けた成果として論文投稿準備を進めている。さらにMCによる基質輸送活性と膜脂質成分との関係について、カルジオリピンを中心とした解析を進めた結果、酵母ミトコンドリア内膜局在型のAAC1を含むMC5種はカルジオリピンの存在下でより高い輸送活性を示すのに対し、例外的に液胞膜に局在するANT1の輸送活性はカルジオリピン非存在条件の方が高いことを明らかにした。マラリア原虫の6種のMCのうち5種がカルジオリピン存在条件において輸送活性が上昇するのに対し、唯一SAM輸送体として同定したMCのみがカルジオリピンに非依存的な輸送活性を有することを明らかにした。マイトソームにカルジオリピン合成系が無いと予想される赤痢アメーバにおいてはPAPS輸送体活性がカルジオリピン存在下ではむしろ阻害されることを確認した。これらの結果は、我々の試験管内再構成系が脂質条件を反映した膜輸送機能を再現する系として適していることを示すとともに、試験管内解析系である程度のオルガネラ局在を予測できることを示唆している。
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