微生物ゲノム解析の進展に伴い、宿主と寄生生物の共進化の過程において、宿主と寄生細菌間の遺伝子の伝播とその多様化が重要な役割を果たしていることが認識されてきた。ドメインを超えた異種微生物間の遺伝子伝播は、ゲノム解析によりその痕跡が確認されているが、実験的にどの程度の頻度で起こるかは未解明のままである。本研究では、核酸分子伝達のモデルとして、アメーバと水環境中のアメーバ寄生細菌を用い、アメーバから細菌への核酸分子の移行頻度と遺伝学的影響について検討した。 大阪府下の河川より、アカントアメーバに寄生する細菌を11株分離し16S rRNA遺伝子の系統解析を行った。広宿主域プラスミドpBBR122を用いて自然形質転換能の有無を調べた。アメーバ核酸をチミジンのアナログであるEdUで標識した後、寄生細菌と共存培養した。細菌細胞内に取り込まれたEdUをAlexa Fluor488で蛍光標識し、蛍光顕微鏡下で計数した。また寄生前後の細菌のゲノム配列の変化を網羅的に調べた。さらに外来核酸移行による遺伝学的影響を検討するために、細胞外DNA・RNAを取り込ませながら増殖した細菌の突然変異頻度を測定した。 系統解析の結果、アメーバ寄生細菌はバクテロイデス門、ベータプロテオバクテリア綱、ガンマプロテオバクテリア綱に属した。自然形質転換能を有する株と有しない株各2株のいずれにおいても、共存培養開始後4時間以内に5~14%という高い割合で、寄生細菌がアメーバ由来の核酸分子を取り込むことがわかった。共存培養後、寄生細菌のゲノム上のタンパク質非コード領域に短鎖のDNAが挿入され、また複数の点変異が見られた。細胞外核酸を取り込ませながら増殖させた実験系では、外来核酸分子を取り込むことにより突然変異頻度が3~9倍上昇した。寄生を通じて、寄生細菌のゲノムの多様化が進むと考えられた。
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