ヒト腸管には100兆個もの腸内共生細菌が常在しており、恒常的な自然炎症誘導の場となっている。しかしながら、健常な腸管では、共生菌に対する免疫応答と抑制のバランスが適切に保たれ、可逆的な反応である「生理的炎症」が誘導されるに留められている。この免疫バランスの破綻はクローン病など不可逆性な「病理的炎症」の引き金となる。無菌マウスに腸内共生菌を定着させると炎症抑制に寄与する制御性T細胞(Treg)が増加することから、共生細菌と宿主の相互作用が腸管免疫バランスの鍵を握ると考えられるが、その分子基盤については不明な点が多い。 我々は、腸内細菌定着が大腸におけるTregの分化と増殖を促すことを見出した。大腸局所におけるTreg細胞の遺伝子発現変化をマイクロアレイ法により解析したところ、IL-2応答性遺伝子の一つであるDNAメチル化アダプター分子(DNAP)であるUhrf1/Np95の発現が上昇することが明らかとなった。Uhrf1は、活発な増殖期にあるTreg細胞において特に発現が亢進していた。Tregの増殖におけるUhrf1の役割を調べるために、T細胞特異的Uhrf1欠損(Uhrf1 cKO)マウスを作出した。離乳直後のUhrf1 cKOマウスの大腸ではTregの数が顕著に減少していた。Uhrf1 cKOマウスの大腸に存在するTreg細胞はIL-10やCTLA4などの機能分子の発現が低下しており、Tregの機能的な成熟にはUhrf1依存的な細胞増殖が必須であることが明らかとなった。さらに、Uhrf1 cKOマウスでは、大腸におけるTregの数と機能の減弱により、IFN-γを産生する1型ヘルパーT細胞(TH1)およびIL-17Aを産生する17型ヘルパーT(TH17)細胞が異常に活性化し、慢性炎症が惹起されることが判明した。以上の結果から、Uhrf1は大腸Tregの増殖と機能成熟をサポートすることで、腸管のTH1やTH17細胞が腸内細菌に過剰に応答するのを防ぎ、大腸における免疫恒常性の維持に重要な役割を果たす分子であることを明らかとした。
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