研究領域 | 内因性リガンドによって誘導される「自然炎症」の分子基盤とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24117724
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
武富 芳隆 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主任研究員 (40365804)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ホスホリパーゼA2 / 肥満 |
研究実績の概要 |
リン脂質代謝酵素ホスホリパーゼA2(PLA2)分子群のうち、複数の細胞外分泌性PLA2(sPLA2)アイソザイムが代謝性慢性炎症を制御する知見を得ている。本年度は、遺伝子改変マウスの包括的な表現型解析をもとに肥満に対して促進的あるいは抑制的に作用するsPLA2アイソザイムを同定するとともに、作用メカニズムに迫る以下の解析結果を得た。 ①V型(sPLA2-V)、IIE型(sPLA2-IIE):sPLA2-VならびにsPLA2-IIEは過栄養に伴い脂肪細胞において発現誘導され、異なる基質特異性のもとリポタンパク質の修飾を通じてそれぞれ肥満の抑制ならびに促進に関わることを明らかとした(メタボリックsPLA2の同定)。さらに、sPLA2-Vは免疫状態を脂肪組織の慢性炎症に対して拮抗的に働くM2-Th2状態へと配向させる機能をもつことを見出した。 ②III型(sPLA2-III):sPLA2-IIIは脂肪組織間質(SVF)の前脂肪細胞及びマスト細胞に発現しており、脂肪合成を通じて肥満の促進に関わることを見出した。このうち、マスト細胞の制御について、sPLA2-IIIは未成熟なマスト細胞から分泌され、隣接する局所微小環境(線維芽細胞)の脂質メディエーター動員を通じてマスト細胞の成熟を制御することを明らかとした(Nat. Immunol. 2013)。 ③IID型(sPLA2-IID):sPLA2-IIDはSVF中の肥満抑制性M2マクロファージに発現しており、肥満の抑制に関与することを見出した。sPLA2-IID欠損による肥満増悪メカニズムは解析中であるが、一方で、sPLA2-IIDに機能について、本酵素はCD11c+樹状細胞に高く発現しており、抗炎症性脂質メディエーターの動員を通じて接触性皮膚炎の緩解に関わることを明らかとした(J. Exp. Med. 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では領域の掲げる目標「内因性リガンドによって誘導される自然炎症」の観点から、内因性リガンドsPLA2とC型レクチンsPLA2R/CLEC13Cの相互作用にフォーカスし、代謝性自然炎症におけるsPLA2→sPLA2Rを介した免疫システムを解明することを目指している。本年度は肥満をモデル系として、内因性リガンドに相当する各種sPLA2がどの細胞から分泌されるのか、各種sPLA2を欠損したマウスの肥満状態はどのように変化するのか、という点を中心に研究を進めた。sPLA2-Vについてはリポタンパク質代謝と免疫バランスの制御を通じて肥満の抑制に関与することを明らかとした。さらに、肥満に関する知見ではなかったものの、sPLA2-IIIは肥満促進のキープレイヤーであるマスト細胞の制御に関わる点、sPLA2-IIDについては抗炎症性脂質メディエーターの産生に関わる点において大きな業績を挙げた。一方、sPLA2→sPLA2Rを介した免疫システムを解析するためにはsPLA2R欠損マウスの解析は欠かせない。本年度は本欠損マウスの導入と繁殖に時間を要したため、十分解析することができなかったが、現在解析段階にあり、今後の展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの知見を発展展開させ、肥満または動脈硬化などの代謝性疾患をモデル系として、自然炎症の担い手としてのsPLA2分子群の役割の全貌解明を目指す。本年度は以下の点に焦点をあて解析を進める。 ①sPLA2R欠損マウスの解析:「sPLA2の作用はsPLA2Rを介するのか?」という命題に応えるべく、sPLA2R欠損マウスの肥満の表現型を解析し、sPLA2→sPLA2R経路が肥満に促進的に働くのか、もしくは防御的に働くのかを明確にする。 ②sPLA2欠損マウスの解析:引き続きsPLA2欠損マウスの肥満に関する網羅的解析を行い、sPLA2R欠損マウスの表現型と同一の表現型を示すsPLA2欠損マウスを探索することで内因性リガンドとして作用し得るsPLA2アイソザイムを同定する。各種細胞特異的コンディショナル欠損マウスと全身欠損マウスとの比較精査を通じて各種sPLA2アイソザイムの供給元となる細胞を同定する。 ③sPLA2→sPLA2R経路の検証:(1)各種sPLA2過剰発現マウスの肥満の表現型がsPLA2R欠損の導入によりキャンセルされるかについて検証を行い、特定のsPLA2-sPLA2R経路が肥満の発症進展に寄与するか評価する 。(2)初代培養細胞(免疫細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞など)においてsPLA2→sPLA2Rシグナリングが動くかin vitroによる検討を行う。(3)ヒトへの応用展開を見据え、患者組織において各種sPLA2やsPLA2Rの発現が病態の進行度と相関するか検討する。
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