研究概要 |
脂肪細胞から分泌され、肥満を制御する2種の脂質分解酵素(分泌性ホスホリパーゼA2, sPLA2)、すなわち、PLA2G5ならびにPLA2G2Eを同定した(Cell Metab, 2014)。これら2種のsPLA2は過栄養に伴い脂肪細胞において著しく発現誘導された。 PLA2G5欠損マウスでは、高脂肪食負荷による肥満が野生型マウスと比べて増悪し、内臓脂肪蓄積、脂肪肝、高脂血症、インスリン抵抗性の悪化が認められた。欠損マウスの内臓脂肪組織では炎症促進性のM1マクロファージが増加する一方、炎症抑制性のM2マクロファージは減少しており、慢性炎症のバランスが促進へと傾いていた。肥満により肥大化した脂肪細胞から放出される飽和脂肪酸(パルミチン酸など)は脂肪組織の慢性炎症を惹起し、M1マクロファージを誘導する。リピドミクスの結果、脂肪細胞から分泌されたPLA2G5は血漿中の低密度リポタンパク質に作用し、粒子を構成する主要リン脂質であるホスファチジルコリンから不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸など)を遊離することが判明した。この不飽和脂肪酸は、パルミチン酸によるM1マクロファージの誘導に対して拮抗的に作用し、M2マクロファージへの形質変換を促進した。よって、PLA2G5はリポタンパク質粒子のリン脂質から不飽和脂肪酸を動員することで、脂肪組織の慢性炎症を抑制する役割を持つことが明らかとなった。 一方、PLA2G2E欠損マウスでは肥満、脂肪肝、高脂血症の改善が認められた。リピドミクスの結果、PLA2G2Eはリポタンパク質中の微量リン脂質であるホスファチジルエタノールアミンとホスファチジルセリンを選択的に分解していることが判明した。よって、脂肪組織から分泌されるPLA2G2Eは、リポタンパク質の微量リン脂質の量を調節することで、脂肪組織や肝臓への脂質の運搬・貯蔵を促進する役割を担うものと結論した。
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