研究領域 | 精神機能の自己制御理解にもとづく思春期の人間形成支援学 |
研究課題/領域番号 |
24118503
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
長谷川 功 新潟大学, 医歯学系, 教授 (60282620)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 認知科学 / 動物 / 神経科学 / 心の理論 |
研究実績の概要 |
ヒトは集団社会の中で、他者も心を持つ存在とみなしてその意図を推測し、敵と味方を峻別して社会的に適応する能力を育む。しかし、この能力がどのような神経回路の動作により担われ、また個体の成長における自己制御の確立にどのように関わるかの理解は不十分であり、このような高次認知能力の大脳メカニズムを調べる動物モデルも存在しない。本研究では,「助ける」と「邪魔する」という関係の認知、および当事者の一方の立場に立って適切な行動がとれるか否かを実験的に検証するための、非言語的な新しい動物実験パラダイムの開発を目的とする。 当該年度には、まず「助ける」「邪魔する」の動画を、複数の場面、登場キャラクターの組み合わせで、役割を交代させながら、人形劇で作成した。次に、試行ごとに呈示した動画の内容が「助ける」なら二つの選択刺激の中から片仮名の「ミ」を、「邪魔する」なら「テ」をレバー操作で選ばせる実験課題を構築し、馴化訓練を終えた一頭のニホンザルにオペラント学習させた。場面と登場人物の役割を固定して成績が90%を超えるまで教え、さらに同一場面でキャラクターの役割が異なる動画と、異なる場面の動画でも訓練を施した。これまでに、同じ場面で役割のみ交代した場合には最初から教える場合よりも学習の節約が認められたが、場面が変わった場合には学習の節約は認められなかった。今後、様々な場面における学習を経験させて、「敵」と「味方」のラベル付けがどこまで汎化するかを検証する予定である。 精神機能の自己制御理解の動物モデルとして、非言語的に社会関係の認知能力を評価する適切なパラダイムは重要である。また、本研究の目指す非言語的認知パラダイムは,霊長類の実験研究のみならず、ヒトを対象とした発達認知心理学、広汎性発達障害児の行動学的評価や、領域の研究にも応用可能なものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに1) 実験システムの構築、2)マカクザルの馴化訓練を終え、3)サルが10秒前後の動画を、レバーを引いたまま見た後に内容を判定して対応するアイコンをレバー操作で選択する、という認知パラダイムの基本的枠組みは確立された。さらに4)種々の場面・登場キャラクター・役割分担の組み合わせで「助ける」と「邪魔する」の動画刺激を作成し、学習汎化テストの一歩手前の予備的な行動学的知見まで得られた。以上より、進捗は順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、サル行動実験においては、有限個のプロトタイプ動画で「助ける」「邪魔する」のシンボルとの対応を学習後に、初めて見る場面に対してもラベル付けが汎化するかどうかの検証を進める。次に、1つの場面に絞り、サルが当事者の一方の立場をシミュレートして社会的に適切な行動がとれるかどうかを調べる認知行動課題を開発する。さらに1頭目のサルでは大脳ネットワークの動態について皮質脳波法で検証するための電気生理計測システムを構築し、多点電極留置手術をおこなう。2頭目のサルでも行動実験を開始する。当初の計画に加えて、サル実験と同一の動画刺激を用いて、定型発達と発達障害のヒト小児を対象とした認知行動実験を行う。以上の実験は、研究代表者の総括のもと、修士大学院生の加藤、博士研究員の西山、助教の川嵜が共同で進める。
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