本研究の目的は、複数人のグループによる体験協創に参加して知識循環を促進するロボットを構築することである。ロボットが体験協創の現場、つまり、ワークショップ、展示見学といったことが行われる場所に常駐し、参加者の学びや気づきのシーンを記録・コンテンツ化し、それを他の参加者に提供することで、体験の文脈に埋め込まれた知識循環を加速する環境が実現できると考えた。 初年度は、人と体験協創するロボットを実現するための基盤技術の開発、すなわち、体験シーンの記録や状況に応じたインデキシングの手法の開発と、人に語りかける際のロボットの動作プログラミングを主に行った。前者は、以前から我々が開発してきたPhotoChatと呼ばれる写真共有に基づいたコミュニケーション支援システムを基盤として利用した。PhotoChat上の「会話」を仮想的に展示対象に貼り付け、同じ展示に興味を示した他の見学者にロボットを介して提示する仕組みを開発した。 一方、展示見学者に近寄り、語りかけ、他の展示を推薦するための、基本的な移動、発話、首振りや身ぶりの動作など、ロボットの基本行動要素をプログラミングし、上記の状況認識に応じて動作するロボットの準備を行った。 2年目(最終年度)となる今年度は、これらの基盤技術を利用し、具体的な知識循環の運用環境を構築し、人とロボットの共生の現場を観察・分析した。具体的には、5つの展示エリアで構成された小規模な展示会場を用意し、見学者グループに対して、過去のPhotoChat会話を活用した展示推薦を行うロボットガイドを提供する実験を行った。その結果、発話と身体動作(歩み寄りは指差し)によるロボットの身体性が、スムーズな展示推薦に効果があることが確認できた。また興味深いことに、ロボットの語りかけにより見学者同士の対話が喚起される様子を観察することができた。
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