研究領域 | 動的・多要素な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築 |
研究課題/領域番号 |
24119509
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松野 浩嗣 山口大学, 理工学研究科, 教授 (10181744)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | システム生物学 / シミュレーション / グリコーゲン / 代謝経路 |
研究実績の概要 |
解糖経路、PTSリン酸リレー系と共に、グリコーゲン代謝に関わるパスウェイの計算モデルをハイブリッド関数ペトリネットを用いて作成した。このモデルには、パスウェイに作用する酵素の遺伝子発現、リン酸化の状態、局在情報も組み入れ、階層的に構築した。 Cell Illustratorを用い、パラメータを適切に調整することで、生物実験の結果と一致するシミュレーション結果を得ることができた。特にこの中で、4つのPTS酵素のうち2つのHPr酵素とEIIACrr酵素が、増殖の初期から定常期に渡るグリコーゲンの蓄積と分解プロセスに重要な働きをしていることを見いだした。この予測を確認する実験を現在進めている。 以上のことから、「増殖途中で分解から合成に役割を変えているグリコーゲン代謝経路に関わる遺伝子の発現パターンを捉え、それらの転写制御によって機能する酵素が代謝物に作用する働きを調べ、グリコーゲンの分解・合成切替え決定機構メカニズムを説明できる、転写・酵素・代謝物ネットワークの階層モデルを構築する。」という本年度の目的は達成できたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の目標であったグリコーゲン代謝経路のモデルに加えて、2年目に実施する予定であった解糖経路とPTS機構のモデルも組み込んだハイブリッド関数ペトリネットの計算モデルを作成し、解糖経路前半部分については、既知の代謝物データとほぼ同じ振る舞いを再現することに成功した。 これに加えて、当初の目標に無かった、PTSの2つの酵素HPr, EIIACrrがグリコーゲン分解と合成に大きな働きをしていることも見いだすことができ、これは予定になかった大きな進展である。 ただし、1年目の目標に含まれていたペントースリン酸経路のモデル化はできておらず、2年目に残された。この経路をモデルに組み込むことで、解糖経路後半部分の代謝物のシミュレーションについても良好な結果を得られると予想され、これを実施することが課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の目標に設定していたものの持ち越しになった、ペントースリン酸経路のモデル化をハイブリッド関数ペトリネットを用いて行なう。逆に、2年目に実施予定であった解糖経路とPTSリン酸リレー系経路のモデル化は1年目に実施できたので、この持ち越されたペントースリン酸経路のモデル化を実施することは時間的にも技術的にも十分可能である。 さらに、HPrとEIIACrrに関して得られたシミュレーション予想を実験で確認する作業も行なう。これが成功すれば、大腸菌代謝研究において、これまで殆ど注目されて来なかったグリコーゲンの働きについて、その重要性を始めて示すことになり、大きな成果となる。 以上のモデル化を通して得られた知見を基にして、合成生物学のための構成要素を特定し、さらにこれらを組み合わせによる細胞反応システム構築技術の獲得に向けた研究を実施したい。
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