リボスイッチは、分子結合部位(アプタマー)および遺伝子発現制御部位から成っており、前者と対応分子の結合が後者の構造変化を誘起する仕組みで、分子に応答した遺伝子発現制御を実現する。天然リボスイッチのアプタマーは代謝産物に結合するものに限定されるが、任意分子に結合する人工アプタマーは別途獲得できるため、その人工アプタマーを適切に用いれば、任意分子に応答する人工リボスイッチが構築できると考えられる。実際に、これまでに多くの原核系人工リボスイッチ(特に翻訳制御型)が報告されてきた。一方、真核系においては、その翻訳システムの特徴のため、翻訳制御型ONリボスイッチの構築は困難であった。そこで本研究では、特殊な真核系リボソーム進入機構である『shunting』を利用した、真核系人工ONリボスイッチの構築を試みた。 まず初めに、真核系無細胞翻訳システム(コムギ胚芽抽出液)中でshunting機構を詳細に調査し、その情報をもとに、mRNAへの人工アプタマーの挿入位置および方法を決定した。次に、モデルとしてテオフィリンアプタマーを使用し、テオフィリン依存的にshuntingおよび下流遺伝子の発現が促進される「shuntingリボスイッチ」を開発した。このshuntingリボスイッチは、スイッチング時にRNA2本鎖の組換えを伴わず、エネルギーロスが軽減できるため、高い翻訳スイッチング効率を示した。また、2本鎖組換えが必要ないので、設計が簡便であるという利点もある。実際、アプタマーの配列情報だけでshuntingリボスイッチが構築できるように「合理的設計法」も確立した。今後は、合成生物学における種々の応用が期待される。 また、上記研究以外にも、他班の研究者と連携して、原核系人工リボスイッチを活用し、ラン藻の概日リズムを人工的に操作することに成功した。
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