前年度までに開発した熱ショック誘導型の遺伝子大量発現システムがガンの温熱遺伝子治療に有効であるか検討することを目的として、担ガンマウスを使った動物実験を行った。磁性粒子は交番磁場中で発熱するため、磁場照射をスイッチとした遺伝子発現システムとして使用することとした。磁性粒子を担ガンマウスのガン組織に注入したのち、本研究により開発した温熱誘導治療遺伝子発現ベクターをガン組織に導入し、磁場照射によってガン組織を43℃、30分加温した。加温による温熱効果により、加温をしなかったものに比べて腫瘍の増大がある程度抑えられたものの、腫瘍組織の増大が認められたのに対し、本研究で開発した温熱誘導型遺伝子発現システムで発現遺伝子をTNF-αとしたプラスミドを導入した腫瘍組織では腫瘍の増大が完全に抑えられた。腫瘍組織で発現されたTNF-α量を測定したところ、磁場照射なしでは全く発現されておらず、加温によって生産量が増していることがわかった。以上より、本システムの遺伝子治療における有効性が確認された。 また、環境応答型遺伝子発現ユニット作製の他の例についても検討を行った。ティッシュエンジニアリング分野における利用を考慮して、細胞ダメージ応答や酸素濃度応答の遺伝子発現ユニットを新たに構築し、細胞センサーとしての利用を検討した。細胞ダメージを検出するための遺伝子発現ユニット構築では、p53遺伝子のプロモーター領域を利用して、発現感度を増幅するための転写増幅ユニットを組み込んだ合成プロモーターシステムを構築し、酸素濃度応答遺伝子発現ユニットの構築では、酸素応答性が報告されているRTP801プロモーターと高酸素濃度で分解されるタンパク質ドメインとして知られているODD領域を組み合わせて利用することで、転写レベルおよびタンパク質レベルでの低酸素を検出可能な遺伝子発現システムを開発した。
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