研究領域 | 動的・多要素な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築 |
研究課題/領域番号 |
24119515
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮崎 健太郎 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究グループ長 (60344123)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 合成生物学 / リボソーム / 16S rRNA / メタゲノム |
研究実績の概要 |
様々な環境よりメタゲノムを調製し、これを鋳型として16S rRNA遺伝子をPCR増幅した。各環境から得た16S rRNA遺伝子を環境ごとに個別に大腸菌16S rRNA遺伝子発現ベクターの相同部分と交換、Δ7株を形質転換した。ショ糖によるカウンターセレクションの有無により機能相補率を判定した結果、環境により程度の差こそあれ、5 ~ 60%程度の割合で生育を相補した。相補株の総計は数千規模に上り、当初の数値目標(100種類以上)を大幅にクリアーした。 いくつかの相補株を選抜し、増殖速度の観点から詳細に評価した。また、相補性の分子基盤を明らかにするために、二次構造、立体構造の観点から考察を行った。その結果、相補配列に共通する性質として、二次構造の維持が重要であることが判明した。今回我々が得た結果は、既存のリボソーム変異データを大幅に塗り替えるものであり、リボソームの構造・進化に対して多くの新たな知見を与えることができたものと考えている。 生物進化の観点からは、大腸菌の属するγ-プロテオバクテリアとは綱(クラス)のレベルで異なる遺伝子が生育を相補することを示した。生物の系統解析の分子マーカーである16S rRNAが異種間で機能相補的であることは、水平伝播の可能性を示唆し、微生物系統解析の手法に再考を促す。また、Lakeらの唱えるComplexity仮説を否定するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大腸菌16S rRNAの遺伝子欠損の相補実験により、目標値を大幅に上回る異種生物由来の16S rRNA遺伝子を得ることができた。またその過程で、環境ごとの相補率を算定することで、機能遺伝子の取得に必要なノウハウを蓄積することができた。異種16S rRNAを組み込んだ大腸菌の変異宿主ライブラリーも構築した。生育速度の評価を行った結果、必ずしも大腸菌自身の16S rRNAではなく異種のものがより効率的であることを予備的な結果として得た。この発見は、今後の有用宿主の改良という観点で大きな意義を持つ。また異種遺伝子発現という観点からも、大腸菌自身の16S rRNAよりも異種の16S rRNAを宿した変異株でより大きな発現がなされる例も見出し、工学的な利用を考える上で多くの重要な知見を得た。 このように、目標を大幅に上回る規模の相補遺伝子を得たこと、それを利用した大規模な宿主ライブラリーを短期間のうちに構築することができ、当初計画以上に進捗していると判断した。なお、成果の一部はPNAS誌に発表し、関連するプレスリリースも行った。
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今後の研究の推進方策 |
異種16S rRNA遺伝子を含む大腸菌変異体ライブラリーをより多様な観点でスクリーニングする。とくに異種遺伝子発現については、翻訳の素過程をあらわにするレポーター遺伝子を設計し、リボソームの機能解析を加速するとともに、難発現性遺伝子の高発現化など、工学の観点でも有効な手法を確立する。さらに、相補遺伝子間でのファミリーシャッフリングを行い、遺伝子多様性を天然の多様性とともに人工的な多様性にまで拡張する。非天然16S rRNAの有する機能を増殖や異種遺伝子発現の観点で評価し、リボソーム改変に基づく細胞工学の技術体型を構築する。
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