異常な衝動性の亢進は薬物依存や犯罪、自殺の危険因子となり得る。本研究の主な目的は、衝動的行動を制御している神経回路・関連分子を解明することにある。本研究では特に正中縫線核5-HT神経に着目し、中枢神経系のセロトニンと衝動性の関係について諸々の未解決の問題を、オプトジェネティクスによって一挙に解決しようとすることにあった。具体的には、5-HT神経特異的に光受容体であるチャネルロドプシンを発現させ、正中縫線核に留置したファイバーにより光を照射し、5-HT神経活動のON/OFFを可逆的かつ時間的に精密に制御し、衝動的行動の変化を計測した。衝動的行動の測定には3-選択反応時間課題を用いた。 中枢5-HT神経細胞にのみチャネルロドプシンを発現するマウスの正中縫線核に光刺激のためのプラスチックファイバーを埋め込んだ。3-選択反応時間課題の遂行直前、もしくは遂行中に光刺激を与えて5-HT神経細胞の活動を増加させることにより、衝動的行動が抑制されるかどうかを検証した。 結果として、正中縫線核のセロトニン神経細胞の活動を上昇させることで衝動的行動が顕著に減少することが観察された。3-選択反応時間課題では注意機能や意欲を測定することもできるが、それらの指標には変化が無かった。つまり、正中縫線核のセロトニン神経活動は衝動性に選択的に関与していることが示唆された。 さらに、関与するセロトニン受容体の種類を同定するためにセロトニン5-HT2C受容体欠損マウスと上述の5-HT神経特異的に光受容体であるチャネルロドプシンを発現させたマウスを交配させたが、繁殖が上手くいかなかった。現在のところ理由は不明であるが、5-HT2C受容体欠損により痙攣発作がしばしば見られること、チャネルロドプシンを過剰発現させることで小胞体ストレスがかかってしまったことなどが推測される。
|