研究領域 | 予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用 |
研究課題/領域番号 |
24120509
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 暢明 京都大学, 生命科学系キャリアパス形成ユニット, 研究員 (20517924)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神経行動学 / 国際研究者交流(インド) |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエの雄にとっては、採餌場所が雌との出会いの場になることが多いのだが、雄が餌臭の中で雌を感知し、求愛行動を開始した時、脳内の餌臭に対する匂い応答は、その刺激がある以上、変化しないのだろうか? また、雄に餌臭と雌臭を選択させた場合、選択された匂いと選択されなかった匂いの感覚情報処理は、それぞれの匂いを単独で与えた場合と同じであろうか? ショウジョウバエが餌臭や雌臭を選択する過程をモデルにして、動物が行動を決定する際の感覚情報処理機構を明らかにすることを目的として本研究を開始した。 2012年度は、まず、ショウジョウバエの雄に、餌臭単独もしくは雌臭単独を選択する系の確立を目指し、テスト実験を行った。その結果、ショウジョウバエの雄は、グレープジュース、酵母、ビールなどの餌臭のうち、グレープジュースの匂いに最も効率良く誘引されることがわかった。さらに、グレープジュースの濃度と誘引率には正の相関があること、また、空腹時の雄は満腹時の雄より、より低濃度のグレープジュースの匂いに誘引されることがわかった。具体的には、空腹時には、1%~10%の濃度のグレープジュースの匂いに誘引されるのに対して、満腹時には10%以上のグレープジュースの匂いにしか誘引されなかった。 それに対して、雄は、雌臭やショウジョウバエのフェロモン物質などには、様々な条件を検討してみたが、誘引されることはなかった。この結果から、ショウジョウバエの雄に餌臭と雌臭のいずれかを選択させる実験系を組むことは困難であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、ショウジョウバエの雄に餌臭と雌臭のいずれかを選択させる行動実験系を組むことは困難であることが明らかになったが、その一方で、餌臭に関しては、グレープジュースの匂いを用いれば、ショウジョウバエに匂いを選択させることが可能であることが明らかになった。その結果、2013年度には、雄がグレープジュースの匂いを選択する行動をモデルに、ショウジョウバエが匂いを選択する際の基盤となる神経応答を調べる研究を開始することができることから、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度の結果から、ショウジョウバエの雄に餌臭と雌臭のいずれかを選択させる実験系を組むことは困難であることが明らかになったので、今年度は研究の方針を若干変更し、餌(グレープジュース)臭に雄が誘引される系を用いて、行動選択時の匂い応答を明らかにする。 ショウジョウバエの雄は空腹時には、1%~10%の濃度のグレープジュースの匂いに誘引されるのに対して、満腹時には10%以上のグレープジュースの匂いにしか誘引されなかった。この結果を利用して、空腹時および満腹時のショウジョウバエの0.1%~10%のグレープジュースに対する神経応答を記録する。なお、神経応答は、遺伝学的手法を用いて、半分以上のタイプの嗅細胞にカルシウム蛍光指示タンパク質であるGCaMPを発現させて記録し、その結果を空間的・時系列的に解析することで、空腹時・満腹時のグレープジュースの匂いを選択する行動と相関のある神経応答を明らかにする。
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