研究領域 | ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明 |
研究課題/領域番号 |
24120713
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
末谷 大道 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (40507167)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | コミュニケーション / 予測・先読み / 神経回路網 / カオス力学系 / 同期 / 適応制御 |
研究実績の概要 |
生命が持つ大事な機能として「予測」や「先読み」がある。現在我々は、予測能力の獲得過程を非線形力学系、特に、先行同期(Anticipating Synchronization: AS)の観点から研究を行っている。本年度は、SussilloとAbbottが提案した、echo state型の再帰型神経回路網(RNN)に読み出し部分からのフィードバックを与えることで内部ダイナミクスをアトラクタとして安定化させる学習法(FORCE-learning)を利用した時系列の予測に関する研究を行った。その結果、教師データとして現在のRNNの状態と入力に関する未来の状態の差が与えられた場合には、ある一定時間安定に学習させることが出来た。しかし、ASで想定されている、RNN内の過去の状態と現在の入力状態の差を教師データとした場合には学習がうまくいかないことが分かった。これは、FORCE-learningでは、逐次的最小二乗法(RLS)で読み出し部分の重み係数を推定しているが、ASにおける同期誤差をそのままRLSにおける誤差信号として用いることが適切でないためである。現在、その学習法の修正に取り組んでいる。また、ASの同期誤差を教師データとして直接与えるのではなく、強化学習における報酬のように課題に対する達成度に応じて間接的に系の学習を行う(HoerzerらがFORCE-learningの枠組みで報酬の値に応じて読み出し部分の重み係数を修正する方法を提案している)ことで予測に対応する状態がRNNの内部に発生するか調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主要なテーマである力学系を用いた予測や先読みについて、FORCE型の神経回路網によるシステム同定やデータ同化の考え方を取り入れた結合カオス系の研究を行い、幾つかの国際会議や国内会議で発表するなど順研究成果を公表している。また関連した研究で海外の連携研究者(U. Parlitz氏)と論文を投稿するなどの研究活動も行っている。以上の理由から概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目標は予測や先読みの能力が力学系の特性としてどのように現れ、それが個体間のコミュニケーションの創発にどのように結びつくかを明らかにすることである。 SussilloとAbbottが提案したFORCE-machineを感覚-運動系を構成する再帰型神経回路網とし、強化学習的なフレームワークで外界にある身体ダイナミクスを制御する問題を考える。特に身体・環境からの感覚信号に時間遅れがある場合に予測を明示的な目的(教師信号)とすることなく、環境を学習することを通じて再帰型神経回路網の内部ダイナミクスの中に時間遅れを補償する未来に関する情報が生成されるか調べる。 上記問題の具体的制御対象として、Sternadらが研究したコーヒーで満たされたカップ(不安定な力学)を画面上のカーソルに合わせるように腕で動かす運動制御実験を簡便化したモデルを考える。このような制御という操作を通じて予測する対象とされる対象との間に相互作用がある場合の振る舞いを同期・非同期遷移ダイナミクスとして探求し、「主体的に見える行為」の力学系的理解を目指す。 さらに、各々が再帰型神経回路網による予測機能を持つ複数のエージェントから成る系を考え、この系で生じる集団内での予測の干渉のダイナミクスの考察を通じてコミュニケーション情報学を形成するためのアイデアを得る。
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