認知機能と関連して現れる脳波の長距離同期現象は、脳領野間の情報伝達メカニズムの理解にとって重要な現象であるが、脳波は数百万ヶものニューロンの集団電位であり、長距離の情報伝達の実態を知るためには、選択的な情報を担う個々のニューロン活動と脳波の関係を明らかにする必要がある。本研究では、コラム構造をもつニューロン回路における発火活動と局所細胞外電位(LFP)との関連、及びコラム構造と関連した空間投射構造をもつ2領野間の発火パターンとLFP同期との関連を計算機シミュレーションにより検討した。1万ヶのintegrate-and-fireニューロン及び約4千万ヶの結合よりなる2領野回路を用いて調べた結果、1、LFPは最も強い入力をうけた特定のコラム内のニューロン活動とのみ強い相関があること、2、2領野間LFP同期はコラム群活動パターンの投射構造で規定される空間整合性と強い相関があること、3、2領野の空間活動の整合度に応じて特定コラム内の低周波振動活動(10Hz)が選択的に伝搬されること、が明らかになった。これらの結果は、コラム間のニューロン発火活動が’winner-take-all’型で相互作用するというより一般的な原理に基づくものと考えられた。脳波はLFPよりも100倍程度広い領域のニューロン活動の総体と考えられるが、その範囲に分布するLFPは空間的な独立性が高いと考えられるため、脳波も同様のメカニズムが成り立つと期待できる。以上の結果は、脳波長距離同期現象の生成機序として、領野間の発火活動の空間パターンの整合度が重要なパラメータであることを示し、認知情報処理と脳波同期現象の対応を明らかにする上で意義がある。
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