研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
24121701
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小椋 賢治 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 特任准教授 (50270682)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | タンパク質 / NMR / 立体構造解析 |
研究実績の概要 |
NADPHオキシダーゼを制御する細胞質タンパク質p47phoxはPX-SH3-SH3-AIRのドメイン構成からなるマルチドメインタンパク質である.NADPHオキシダーゼの活性化状態において,p47phoxPXドメインは細胞膜に存在するPI(3,4)P2と結合している.一方,休止状態では,p47phoxが膜移行しないようにPXドメインは分子内自己阻害されていると考えられている.本研究の目的は,溶液中におけるp47phoxの自己阻害構造を解析し,その生物学的な意義を解明することである. p47phoxのX線小角散乱(SAXS)実験をおこなった.SAXSデータを基に構築した低分解能モデルは,PXドメインおよびSH3-SH3-AIRドメインの既知結晶構造とフィットしなかった.このことは,p47phoxのPXドメインとSH3-SH3-AIRドメイン間の相対配置が揺らいでいるために低分解能モデルが見かけ上小さくなったことを意味する.両ドメイン間のリンカー領域が柔軟であると仮定し,アンサンブル最適化法により,実測SAXSデータを満たす立体構造サブセットを抽出したところ,PXドメインとSH3-SH3-AIRドメインが接触したclosed構造と遊離したopen構造が8:2の平衡にあることがわかった.さらに,両ドメイン間のリンカー領域をGlyとSerに置換した変異体では,SAXSデータ由来の距離分布関数が大きく変化して,独立な2ドメイン様分布を示した.このことは,リンカー領域がPXドメインの分子内阻害に関与していることを意味する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度研究計画では,(1) X線小角散乱法とアミノ酸変異によるp47phoxにおける分子内相互作用領域の決定,(2) NMRランタニドプローブ法による自己阻害モデルの構築,を年次目標とした.(1)に関しては,ふたつのドメインを連結するリンカー領域が分子内自己阻害に関与していることをあきらかにした.(2)に関しては,自己阻害モデルの構築には到達していないものの,p47phoxのPXドメインに常磁性ランタニドイオンを固定化することに成功した.さらに,常磁性ランタニドイオンがもたらす偽接触シフト(PCS)情報を用いて,PXドメインに対するPI(3,4)P2の相互作用機構をあきらかにしつつある.総合的に判断して,本研究計画は概ね順調に進展しているものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
25年度では当初研究計画のとおり,(1) NMRランタニドプローブ法による自己阻害モデルの構築,(2) NADPHオキシダーゼ再構成系を用いたp47phoxの自己阻害構造が活性酸素発生能に与える影響の解析,(3) 細胞イメージング法を用いたp47phoxの自己阻害構造が細胞内局在に与える影響の解析,をおこなう. (1)に関しては,p47phoxに常磁性ランタニドイオンを固定化し,常磁性ランタニドイオンの効果により得られるPCS情報を用いて剛体ドッキングモデル計算をおこない,p47phoxの自己阻害構造モデルを構築する.このとき,p47phoxは分子量が約40000と溶液NMRの測定対象としては分子サイズが大きいため,NMR信号のオーバーラップや緩和時間短縮による線幅の増大など,スペクトル解析の困難が予想される.そのため,アミノ酸選択ラベルやメチル基選択ラベルの試料調製技術を併用して,精度の高い構造情報を得ることとする. (2)および(3)に関しては,連携研究者の住本教授(九州大学)の協力にもとづき,NADPHオキシダーゼ再構成系および細胞イメージング法の実験をおこなう.
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