研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
24121715
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
島村 達郎 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90391979)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | GPCR / 構造解析 / 抗体 / アデノシン受容体 |
研究実績の概要 |
GPCRは多くの病気に関係し、40%以上の薬がGPCRを標的としている。新薬の開発には、標的となるタンパク質の立体構造情報に基づいた薬剤設計が効率的だが、GPCRの構造解析は難しい。その原因としては、GPCRが①活性型と不活性型の平衡状態で存在するため構造上の柔軟性が高い分子であることや、②結晶成長に必須な親水性表面が少ないことなどが挙げられる。 我々は、構造認識抗体を結合させることで構造的な揺らぎを抑えるとともに、親水性表面を拡張させ、ヒト由来アデノシンA2a受容体(A2a)の不活性型構造を決定することに成功している(Hino et al. Nature 2012)。今年度は、A2aの活性型構造を決定するため、A2aの活性型構造を安定化させる抗体の取得を試みた。 我々はまず、メタノール資化酵母で発現させた野生型A2aを精製し、agonistであるNECAを結合させ、リポソームに再構成しマウスに免疫した。しかし、活性型構造だけを安定化させるような質の良い抗体はとれなかった。そこで我々は、Magnaniら(PNAS 2008)により報告されたA2aの活性型安定化変異体を用いて免疫を行った。そして、リポソームELISA、dot blottingにより構造認識抗体を選別した後、Biacoreを用いてA2aに親和性の高い抗体を選抜した。そのような抗体を野生型A2aに結合させてagonist、antagonistへの親和性を測定したところ、antagonist への親和性には影響しないがagonistへの親和性を上昇させる抗体が複数存在した。これらは、A2aの活性型構造を安定化する抗体であると考えられる。現在はこれらの抗体のFab断片とA2aの複合体の結晶化を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、受容体を活性化状態で安定化させる抗体を取得することを目指して研究を行った。Magnaniら(PNAS 2008)により報告されたA2aの活性型安定化変異体を用いて免疫を行ったところ、活性化状態を安定化させると考えられる抗体が取得でき、計画通りに進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に作製した抗体を用いてA2a との複合体を作製し、結晶化・構造解析を行う。結晶化は、β2アドレナリン受容体の活性状態の構造解析を初め、ヒトGPCR の構造解析で利用されたキュービックフェーズ法と、蛋白質の構造解析で従来から用いられている蒸気拡散法の両方の手法で行う。キュービックフェーズ法は、生体膜に類似の脂質二重膜内で膜蛋白質を結晶化する手法で、膜蛋白質を安定に保つことが可能である。野生型A2a とagonist、抗体を混合し、複合体を形成させて、結晶化を行う。結晶ができたら、さらに条件を最適化する。結晶のチェックとデータ収集は、大型放射光施設SPring8 で行う。
|