研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
24121725
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
潮田 亮 京都産業大学, 総合生命科学部, 助教 (30553367)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 小胞体品質管理 / 小胞体関連分解 / カルシウムホメオスタシス / Redox |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、従来レクチン様シャペロンカルネキシンからEDEMを介してリクルートされる糖タンパク質基質に対して、非糖タンパク質基質がBiPを介してERdj5にリクルートされるという新しい経路を見出した。ERdj5のN末端に存在するJドメインにBiPが結合することで基質はERdj5へリクルートされており、このリクルート機構にはEDEMが関与していないことが示された。EDEM-ERdj5とBiP-ERdj5という2つの複合体を形成することで、ERdj5はより広範な基質に対応することが可能となり、また、本研究によってBiPによるERdj5への基質リクルート経路がERストレス時に糖タンパク質経路のバックアップ経路として働くという重要な知見を得た。我々は現在、これらの結果をまとめ、論文を投稿中である。さらなる詳細な分子メカニズムを解明するため、九州大学稲葉研との共同研究によってEDEM-ERdj5の共結晶に挑戦している。EDEMは2001年に小胞体関連分解に関与するレクチンとして我々のグループが同定したが、結晶化にはまだ成功していない。ERdj5との結合サイトはin vivoの免疫沈降実験によって同定されており、ERdj5とEDEMとの複合体形成がEDEM自身の安定性に寄与するのではないかと期待している。 これまでERdj5はEDEM、BiPと複合体を形成し、自身の還元活性によってタンパク質の品質管理に重要な役割を果たしていることがわかってきた。小胞体の恒常性維持にはタンパク質品質管理機構以外にもレドックス制御およびカルシウムホメオスタシスという環境要因が複雑にクロストークしていると考えられる。現在、ERdj5の還元活性がこれら環境要因に影響を与える重要な知見を得ており、ERdj5が過渡的複合体を形成し、小胞体の恒常性維持に深くかかわっていることが解明されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小胞体還元酵素ERdj5を介した小胞体関連分解に関して小胞体内で2つの異なる複合体を形成し、糖タンパク質および非糖タンパク質両方の基質にERdj5が対応していること、および非糖タンパク質基質の分解経路が糖タンパク質経路のバックアップとして働くことを見出した。これらの研究成果をまとめ、論文を投稿し、現在revice中である。当該年度で目的としていた小胞体膜上カルシウムトランスポーターとの結合を免疫沈降法で確認し、結合による細胞内カルシウム濃度の変化をYellow Cameleonを用いて測定することが出来た。ERdj5ノックアウトマウスから樹立したMEF細胞を使い、細胞内カルシウムの変化を経時的に追跡することに成功し、当初予定していた進捗で研究は遂行されている。また、我々はシステイン修飾試薬であるPEG-maleimideを用い、カルシウムトランスポーターのレドックス状態を観察しようとしている。また、当該年度からERdj5とカルシウムトランスポーターとの共結晶を得るため、東北大学稲葉教授との共同研究でリコンビナントタンパク質の精製を試みている。概ね順調に研究は進行しており、本年度中に学会発表および論文投稿を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
小胞体還元酵素ERdj5の還元活性による小胞体カルシウムホメオスタシス維持機構に関して引き続きさらに詳細な解析を行う。具体的には結合領域の解明、レドックス状態の変化、小胞体ストレス応答への影響などを調べる。これらをまとめ本年度中に成果を国内外に発表したいと考えている。さらに我々は、小胞体の「タンパク質品質管理」「レドックス制御」「カルシウムホメオスタシス」という3つの環境要因に関して、それらのクロストークに着目する。これら環境を維持するために、小胞体には20種類を超えるチオレドキシンスーパーファミリーが存在し、それらがネットワークを形成し、基質のジスルフィド結合を触媒している。ERO1/PDI複合体を中心に酸化力は各チオレドキシンスーパーファミリーに提供されており、これらのネットワークが小胞体恒常性にどのように関与するかを網羅的に観察したいと考えている。小胞体環境を構成するカルシウムホメオスタシスおよびタンパク質品質管理に着目し、小胞体レドックスネットワークとの関わりについての解析を進めたいと考えている。
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